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表紙

緑の騎士 -87-
 間もなく、元気そうな金髪の女が入ってきて、ちょこんとお辞儀した後、ベッドに青の上掛けを広げた。
 マリアンネは、疲れて落ちそうな瞼をなんとか持ち上げて、女に微笑みかけた。
「あなたがレアね」
「はい、奥方様」
 きちんと敬称で答えたところを見ると、ヨアヒムが客の素性を話したらしい。 クルトとレアの夫婦は、彼らに全面的に信頼されているようだった。
 身元を隠す必要がないので、マリアンネはほっとして肩の力を抜いた。
「手入れの行き届いたお屋敷ね」
 椅子とオットマンにかけた埃よけの布を外して畳みながら、レアは嬉しそうに胸を反らせた。
「夫は無口ですが、働き者なんです。 私も体を動かすのが向いている性分で」
 言葉の通り、てきぱきと歩き回って部屋を整えると、レアは水差しとワインを持ってきてテーブルに置き、着替えを手伝ってから、他に用はないか尋ねた。
「いいえ。 夜中に起こして悪かったわね。 ゆっくり寝〔やす〕んでちょうだい」
 驚いた表情で、レアは息を呑んだ。
 それから、ゆっくりした調子で呟くように言った。
「ありがとうございます。 ご親切に」


 疲れきっていたはずなのに、マリアンネは翌朝、太陽が地平線から顔を覗かせ始めた頃にもう目を覚ました。
 その理由は、すぐわかった。 庭に面した窓の下で、ブルブルという馬の鼻息と、じれたように地面を叩く蹄の音が聞こえたのだ。
 マリアンネは、できるだけ静かにベッドから起き上がり、鎧戸の隙間から前庭を見下ろした。
 ぼんやりした夜明けの光の中に、マント姿の男が浮かびあがっていた。 クルトが大きな馬を引いて、裏手へ入っていく。 男が手袋を外しながら上に向けた顔を見るまでもなく、それがロタールだとマリアンネにはわかった。
 彼は、元気一杯だった。 目が輝き、顔に生気があふれている。 計画はうまく行ったらしい。 そう悟って、マリアンネは反射的に窓を開こうとしたが、すぐ思いとどまった。
 ここは道に面した家だ。 すぐ近くに人家がないにしても、誰かに目撃されて怪しまれたら大変なことになる。
 レアの訪れを待たず、マリアンネは一人で手早く着替え、わくわくしながら部屋を出て、階段を下りて行った。






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