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緑の騎士 -86-
 最後にヨアヒムが持ってきた樽には、導火線がついていた。 二人はまたひそひそと相談し、その長い導火線を門近くのイチイの木に結んでおくことに決めた。
「点火して、マヌケ面で爆発を待ってる奴らを見てみたい」
 ヨアヒムがニヤつきながら囁いた。


 馬に水を飲ませてから、二人は再び出発した。 やがて到着したのは、ギュンツブルクでもブライデンバッハでもなく、グートシュタイン領内に少し入ったところにある、アイゼンタッセ街道沿いの静かな屋敷だった。
 重い鋳鉄の門を開けて、ヨアヒムが中に入ると、すぐ若い男が裏手から現れ、馬を受け取って去っていった。
「こっちだ」
 ヨアヒムが促したので、マリアンネは彼について、暗い屋内に入った。 すると、廊下の端でかすかに光がまたたいているのが見えた。
 そこは、入口以外は厳重に締め切った部屋だった。 一つしかない窓には隙間なく鎧戸がつき、その上に分厚く黒い幕がびっしりと張り巡らされていた。 隠し戸が開いていなかったら、ただの壁としか思われなかったに違いない。
「ここは、危険が迫ったときの避難所だ。 三日分の食べ物と水をいつも置いてある。 大丈夫だとは思うが、万一のときはここに入って扉を閉めろ」
「わかったわ」


 もう一つの秘密をマリアンネに教えてから、ヨアヒムは部屋を照らしていた獣脂ランプを取り上げ、二階の寝室に案内した。
「ここは、ロタールの親戚が持っている狩猟用の別邸だ。 その男は四年前、狩りの最中に馬から落ちて足が動かなくなった。 もうここへは来ないから、ロタールが管理を引き受けて、ついでに改装したんだ」
 話しながらランプから蝋燭に火を移して、ヨアヒムはマリアンネに渡した。
「俺は別の隠れ場所に行く。 明るいうちは外に出るなよ。 ロタールが帰りにこの屋敷へ寄ると思うから、奴とよく相談してくれ」
 マリアンネは、しっかりと頷いた。


 部屋を出かけたところで思い出して、ヨアヒムは一歩戻った。
「さっき馬を連れていった男はクルトだ。 女房はレアといって、なかなかの働き者だ。 彼女が君の世話をしてくれるだろう」








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