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二人が木の陰で息を殺していると、任務を済ませて軽くなった荷馬車が、見違えるように素早く戻ってきて、前を通り過ぎた。 荷台の上には、ここまで押してきた男たちがのんびりと坐り、酒の革袋を渡し合っては口に含んでいた。
軽快な車輪と馬の蹄の音が遠ざかり、完全に聞こえなくなるまで、ヨアヒムとマリアンネは身を寄せてじっとしていた。
それから、小声で意見をぶつけ合った。
「城へ帰るなら、君がいい。 ロープを持っているから、俺がまず城壁に上って君を吊り上げ、中に吊り下ろしてやるよ」
「城内に戻りたくないわ」
マリアンネはにべもなく言った。
「今度逃げ出すとき、大変だもの。 それより、ちょっと思ったんだけど、ここから河岸まで坂になってるわね」
「そうだ。 急な下り坂だが。 岩がごつごつしていて、小さい崖みたいなもんだ。 だから奴らは樽を川からじゃなく、平らな道で運んだんだ」
「重い樽を押し上げるのは大変よね。 でも、上から転がすのは?」
ヨアヒムが身動きした。 暗い中でも、白目が愉快そうにきらめくのがわかった。
「いたずらっ子め、少しも変わってないな」
「思い出したのよ。 空き樽にシギーを入れて、丘のてっぺんから転がしたことがあったじゃない?」
「止まって出てきた後も、あいつしばらくまっすぐ歩けなくて、酔っ払いみたいにあっちへふらふら、こっちへよろよろしてたな」
二人は声を殺して笑った。
「よし、昔のようにやってみるか」
裏門の見張りに気付かれないよう、二人は用心して樫の分厚い門に近付いた。
小ぶりな樽は、門柱の横に茂る雑草や潅木の中に、丁寧に隠されていた。 西門は滅多に開けないから、このままなら何日でも見つかることはないだろう。
端の樽を、ヨアヒムが斜めにしてから、そっと横たえた。 ほとんど音はしなかった。
慎重に、その樽をマリアンネが押していった。 城壁沿いの狭い道を外れると、樽は勝手に動き出し、ゴトゴトと低い音を立てながら、暗い水面に向かっていった。
マリアンネは息を詰めて、その様子を見守った。 やがて、チャプッというかすかな水音が響き、すぐ静かになった。
嬉しくて、マリアンネは飛び上がりたくなった。 これなら大丈夫。 門番の耳には聞こえない!
振り向いて手を挙げると、ヨアヒムは大きく首を振って頷き、次の樽を転がしてきた。 二人で交互に樽を川に落とすのは、十五分とかからなかった。
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