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馬車が重いのだろう。 一団は苛立つほどゆっくり進み、マリアンネの足でも楽についていけた。
退屈な道中だった。 慎重に尾行していくヨアヒムの遠い姿から目を離さぬようにしながら、マリアンネは考えにふけった。
――フォン・グロート夫人が、不意に尋ねてきた私を信用したのは、ロタールと連れ立って行ったからなのかしら。
そうだとすると、彼を警護の騎士に加えたのは、何と幸運だったのだろう。 裏切り者のシギーの代わりに――
正確に言うと、裏切りとはいえないかもしれない。 シギスムントはヤーコブの部下なのだから。 でも彼は、長年の親友を欺き、マリアンネを暗殺する計画に荷担〔かたん〕した。 そう思うと、心が冷えた。
夜道を少なくとも2時間以上歩いたところで、マルトリッツ城が視野に入ってきた。 そこで、突然ヨアヒムが街道を外れ、横の小道に入ったので、マリアンネもついていった。
やがて、風に乗って荷馬車のきしむ音がかすかに聞こえてきた。 下の地面が柔らかいため動きにくく、距離が縮まってきたようだ。
間もなく、ヨアヒムが足を止めた。 マリアンネも止まった。
数分間が経過した後、ヨアヒムはすべるような足取りで引き返してきた。 そして、マリアンネの横に来ると体を曲げ、小声で囁いた。
「西の裏門に火薬をこっそり仕掛けている。 あそこを破られたら大変だ。 マース川から兵と武器を船で大量に送りこめる」
マリアンネも早口で囁き返した。
「今すぐ爆破しそう?」
「いや、五人とものんびりしているから、攻撃命令はまだ出ていないんだろう。 草むらに小さな樽を隠して、下準備だな」
マリアンネは胸を撫でおろした。
「よかった。 まだ敵の裏をかく時間はあるのね」
「おそらくは。 だが、城中の味方にどうやって危機を知らせるかだな。 俺は脱獄犯だし、君は侍女を置き去りにして姿をくらませたんだから」
そう言って、ヨアヒムは片眉を吊り上げてみせた。 こんなときでも、面白がっているらしかった。
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