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表紙

緑の騎士 -82-
 ペーターにディルクへの言付けを残し、二人は馬を引いて街道まで出て、そこで背にまたがった。
 突風は、いつの間にか収まっていた。 十二夜のいびつな月の下、轡〔くつわ〕を並べて慎重に夜道を進んでいきながら、マリアンネはこれまでわからなかったことを、色々ヨアヒムに尋ねた。
「いつ緑の騎士を結成したの?」
 伸びた前髪をうっとうしそうに掻きあげて、ヨアヒムは答えた。
「別に結成したわけじゃない。 ベーベルン(=ブライデンバッハの中心町)の酒場に行ったとき、徴税取立人が横のテーブルにいて、酔ったはずみで自営農の爺さんから余分に絞り取った話を得意げにしゃべり散らしていたんだ。
 だからディルクと二人で後をつけて襲って、金袋を取り返し、爺さんの家の窓に放り込んでおいた。 あの当時は、ディルクも荒れていたからな」
「ヤーコブ様の鼻をあかすのが面白かったのね」
「そうだ。 ヤーコブは昔から陰険だった。 目上と女にはおべっかを使うから人気があるが、同年代の男たちにはひどく嫌われていた」
「ロタールは、どうして加わったの?」
「彼は別系統なんだ」
 不気味なほど静まり返った夜の道だが、ヨアヒムは用心して、一段と声を落とした。
「ヤーコブの野心に気付いたのは、ロタールが先だ。 彼の家系は、もともとこの辺りの小領主で、あちこちに裕福な親戚が散らばって住んでいる。 情報が入りやすいんだ。
 それで、彼は行動を起こした。 頭の軽い女好きに見せかけてヤーコブを油断させ、信用できる同志を集めている。 もうかなりの数になったらしい」
 マリアンネは、はたと気付いた。
「だからなのね、ヤーコブがグートシュタインの後見人になりそこねたのは」
「その通り。 なかなか鋭いな」
 笑いを含んだ声が返ってきた。
「跡継ぎのオットー様には、ロタールがそれとなく疑いを吹き込んだ。 君の名目上の亭主、エドムント様はというと」
 ヨアヒムはほとんど吹き出しそうになっていた。
「新婚の夜に思いきり殴られたことで、ヤーコブを怪しむようになったらしい。 奴の部下が君を利用して暗殺しようとしたと思いこんでいるぞ」
「そう思わせるように仕向けたのもロタールね」
「ああ、あの男は策士だ」
「でも、善い人だわ。 ヤーコブ様と違って」
「そこが大事なところだな」
 マリアンネは大きく息を吸った。 ヨアヒムとの間にわだかまっていた緊張が解け、昔の気安さが戻ってきたのが、ひどく嬉しかった。


 並足で馬を歩かせても、マルトリッツ城から国境まで三時間とかからない。 故郷の森の外れが黒く影になって見えてきたとき、ヨアヒムが馬を止め、鋭く囁いた。
「誰か来る! 右の林に入れ!」








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