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五十歩といっても、足元が見えない不安定な状態では大体の目安にしかならない。 二人が細い階段にたどりついたのは、ヨアヒムが七十二歩数え終えたときだった。
「お、あったぞ」
そう呟くと、ヨアヒムは段を降りる前にマリアンネに注意した。
「上着の裾じゃなく、ベルトに掴まっていろ。 離れ離れにならないように」
「この抜け道を教えてくれたのは、グロート夫人?」
「そうだ。 罠かもしれないと思い、さっきディルクと入って試してみた。 無事城の外へ出られたよ。 君はうまく取り入って、あの女を味方につけたようだな」
ほっとして、マリアンネの肩から力が抜けた。 グロート夫人は頼りになるらしい。
十段の階段を下りた後は、一本道だった。 五分ほど歩いてから、ヨアヒムは立ち止まり、左手の壁を探った。 鎖がかすかに鳴る音がした。
彼が力を込めて引くと、間もなく前の地面に鈍い金色の横筋が入った。 それが外から洩れてくる光だと悟って、マリアンネは胸を躍らせた。
ヨアヒムは軽々と鎖を引き、隠し戸を持ち上げていった。 やがてマリアンネが立ったまま通り抜けられるほどの高さまで隠し戸が上がると、ヨアヒムは顎をしゃくって合図した。
「行け」
すぐにマリアンネは、戸が嵌まっていた深い溝をまたいで、逃亡路から出た。 そこは、小さく浅い洞窟になっていた。
続いてヨアヒムも出てきた。 鎖をしっかり持ったままだ。
マリアンネが振り返って見ていると、ヨアヒムは溝のこちら側へ来てから、すぐ鎖を離した。
とたんに隠し戸が落ちてきた。 短めの鎖は、逃げる蛇のようにするすると戸の下に吸い込まれ、完全に姿を消した。
深い溝に嵌まりこんだ隠し戸は、周囲の苔むした岩と見分けがつかなくなった。
「こっちです。 早く!」
洞窟の口から小さな頭が覗き、せわしなく呼んだ。 ヨアヒムとマリアンネが外に出ると、焚き火が燃え上がっていて、二頭の馬が鞍をつけ、おとなしく立っているのが見えた。
馬を見張っていた少年は、ディルクの親戚で従者のペーターだった。
「はらはらしましたよ。 なかなか出てこないんですもん」
「大人にはいろいろ都合があるんだよ」
「へえ、中でこっそりキスしてたとか?」
返事の代わりに、ヨアヒムは少年の頭を勢いよくはたいた。
「いてっ!」
「バカなこと言ってないで、さっさと馬を引いてこい」
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