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表紙

緑の騎士 -80-
 ベックマンを探しに行くと見せかけて、マリアンネは中央階段を上がり、自室でマントを羽織ってから、廊下を伝って西階段を素早く降りた。
 馬屋の手前には、大きく茂る楡の木があった。 その太い幹を隠れ蓑に使って、マリアンネが裏手に回ると、男の黒い影が二つ見えた。
 その一つが、飛ぶようにマリアンネに近付いてきた。 低い囁きが耳を打った。
「よかった、長くかからなくて」
 闇を透かしながら、マリアンネはディルクと同じ囁き声で尋ねた。
「あれはヨアヒム?」
「そうだ。 見張りの兵に眠り薬入りの酒を飲ませて、身代わりに牢へ入れておいた」
「ベックマンたちは城の警備強化で、囚人どころではないわね。 次の見回りまで時間が稼げるわ」
「そうはいっても、早く逃げるに越したことはない。 さあ、行こう。 馬は裏門から出してある」


 ディルクは馬屋の裏に入り、茫々と茂った蔦のからまりを持ち上げてから、何もないように見える壁を押した。
 すると、石が音もなく動き、ちょうど人一人がもぐりこめるほどの窓が開いた。 マリアンネはびっくりした。
「これは……」
「城壁の中を通っていける入口だ。 何箇所かあるらしいが、外への出口は一つしかない」
 ディルクは、マリアンネを抱えあげて窓から入れた。 すぐにヨアヒムが後に続いた。
 窓が閉まる寸前、闇から覗くマリアンネの白い顔を引き寄せて、ディルクは短くも焼けるようなキスを残した。
「幸運が君達を守るように!」


 こうして、マリアンネはヨアヒムと共に、鼻をつままれてもわからないほどの暗がりの中に残された。
 石塀の間に作られた空間は、二人が並んでも無理なく歩けるほどの幅があった。 下は砂岩で、均〔なら〕していないため凹凸がある。 つまずかないよう、二人は手探りで用心深く進んだ。
「どこが出口なの?」
 片手でヨアヒムの上着の裾をしっかり掴んで歩きながら、マリアンネは小声で尋ねた。
 ヨアヒムは、すぐ囁き返した。
「五十歩行ったら、下へ降りる坂がある」









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