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「ああ……!」
心の中でそう叫んだのか、それとも本当に声を発したのか、マリアンネにはわからなかった。 ただ、気がつくと夢中で恋人に駆け寄って、腕に飛び込んでいた。
ディルクの体は緊張し、怒りと不安で細かく震えていた。
「他の侍女たちが下の部屋に入るのを見た。 だから我慢できなくなって飛んできたんだ」
強くマリアンネを抱き寄せたため、声が押しつぶされた。
「君を守りきれなかった。 自分が許せない! いったいどうしてこんなことに……!」
「わからない。 もしヤーコブ様の指図なら、私の死をエドムント様のせいにして、戦いを仕掛けるつもりかしら」
「恐らくそうだろう。 計算違いが起きたんだ。 兵士たちの噂話によると、どうやらグートシュタインの後見人になりそこねたらしいから」
「では、首尾よく私を殺すまで狙うわね」
「そんなことはさせない!」
息が詰まって、ディルクはあえいだ。
「こうなった上は、君を逃がすしか方法はない」
「逃がす?」
「そうだ。 隠れ家は前から用意してある。 この前君が逃げたときも、そこへ連れていこうとしたが、まだ俺たちの正体を知られていなかったから、早すぎるということになった」
「私はここを離れられないわ」
必死になって、マリアンネは訴えた。
「ロタールは修道院から戻ってきていないし、フォン・グロート夫人がエドモント様を説得できるかどうかもわからないし」
「エドモント様とロタールが帰るのを待っていては手遅れになる。 夕闇の中、あれだけの距離があるのに、たった一矢で人を仕留めた暗殺者を差し向ける敵だよ。 何としても君を殺したいんだ。 やっきになって、次々と刺客を送ってくるにちがいない」
マリアンネはぞっとした。 その肩を固く抱いたまま、ディルクは脱走計画を語り始めた。
「いいかい? 君はヨアヒムと逃げるんだ」
マリアンネの目が真ん丸に広がるのを、ディルクは少しの間楽しんだ。
「彼が捕らえられたまま、ヤーコブに引き渡されることになったら大変だ。 たとえお尋ね者になったとしても、逃がさなければならない。 そうなったら表立って動けないから、君の護衛にちょうどいい」
マリアンネは当惑して、ディルクの凛々しい顔を穴があくほど見つめた。
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