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もう日はどっぷりと暮れ、空は黒に近い色に変わっていた。
方向を定めず、風が回っている。 小枝が千切れて宙を舞うのを見て、マリアンネは夏の嵐が来るのではないかと思った。
兵士たちが、哀れなグレーテの遺体を裏手の部屋へ運んでいった。
「外にいては危険です。 部屋へお戻りください」
巻き上がるマントを押さえながら、ベックマン隊長が言った。 声が風の音に消されないよう、強くしていた。
「そうします。 何かわかったら、すぐ知らせてください」
「仰せのままに」
深刻な表情の隊長を置いて、マリアンネは裏の戸口から城内に入った。 ああは言ったが、きっとベックマンは誰より先にフォン・グロート夫人に報告しに行くだろうと思いながら。
足音がしたので顔を上げると、階段の途中までアガーテが下りてきていた。 両脇をダグマーとイーナが支えている。 壁に取り付けられた松明の火が、ぜいぜいと喉を鳴らすアガーテの紫がかった顔を照らした。
マリアンネは、急いで階段を上がった。
「ひどく具合が悪そうよ。 動いては駄目。 ええと」
急いで下の回廊を見渡し、右手に扉を見つけた。
「あそこの部屋に入れるか見てくるわ」
「奥方様」
息の切れた声が追ってきた。
「下で事件が……悪者が奥方様たちを襲ったと聞きまして、心配で……」
「口をきかないで。 静かにしているのよ」
注意してから、マリアンネは扉を開けた。 幸い、部屋には長椅子と一人掛けの椅子が二脚、古い衝立〔ついたて〕、それと大小の長持が散らばっているだけで、誰もいなかった。 臨時の休憩所に使われているらしい。
「ここに横になって。 動悸を鎮める薬草を取ってくるわ。 その間、イーナはアガーテに付き添っていて。 そしてダグマーは台所へ行って湯を沸かしてもらって」
きびきびしたマリアンネの指示に、三人の侍女は素直に従った。
不安に心を乱されないためには、忙しくしているのが一番だった。 マリアンネは、思いがけない襲撃事件のいろんな可能性に頭を悩ませながらも、力強く階段を駆け上った。
部屋に入り、木箱の蓋を開いて乾燥した薬草の束を取り出そうとしていたとき、敏感になった神経が警報を発した。
背後に誰かいる!
胸に隠した短刀を目立たぬように握りしめて、マリアンネは素早く身を翻した。
戸口に立ち、後ろ手に扉を音もなく閉じたのは、青ざめた顔のディルクだった。
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