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互いの眼を見つめながら愛し合うのは、これが初めてだった。
夜とはいえ、外には丸みを増した月が上って、屋根裏の窓から柔らかい光をヴェールのように射し入れていた。
きれいだ、美しい、と幾度も囁かれて、マリアンネは頬を赤らめた。
「私は並みよ。 普通の若い女にすぎないわ」
「いや、恋人の特別な目で見なくても、君は魅力的だ。 だからヤーコブは、その美しさを自分のために利用しようとしたんだ」
「あなたから見て好ましければ、私はそれでいいの」
マリアンネはディルクの胴に腕を回し、熱い素肌に頬を添わせた。 その顎をディルクが持ち上げ、夢中で口づけた。
その後には、もはや言葉は要らなかった。
空の縁がほんのり黄ばみ、月がまだ地平線の上にさまよっている頃、二人はやっとの思いで抱擁を解いた。
「なんだか武者ぶるいがするな。 今日という日が何を連れてくるのか」
マリアンネも肘で体を起こした。 ディルクの器用な指が、胴着の紐を締め、しっかり結んでくれた。
子供のようになすがままに任せながら、マリアンネは小声で話しかけた。
「ヤーコブ様が護衛によこした兵士たちで、味方になってくれそうな人はいる?」
「数人は。 だがほとんどは呑気な農民上がりで、ヤーコブに従っていれば安全だと考えているはずだ」
「では、やはりエドムント様を味方につけて、できればグートシュタインも取り込んで、ヤーコブ様から守ってもらうしかないわね」
「攻めたほうが話が早い。 この城に来て感じたんだが、強い騎士たちが集まっていて活気がある。 訓練も行き届いているし、守備隊長のベックマンは有能だ。 もしかすると、エドムント様は早くから危険を感じて、軍隊を補強しているのかもしれない」
服装が整うと、二人は立ち上がり、髪や服のあちこちについた干草を取り合った。
「エドムント様は、午後にでも戻ってくるでしょう。 言葉を尽くして頼んでみる。 わかってもらえるといいんだけど」
「わたしはスパイを探そう」
「どうか気をつけて!」
マリアンネはもう一度、恋人の胸に抱きつかずにはいられなかった。
額とこめかみにキスしてから、ディルクはひどく優しく答えた。
「君も用心するんだよ、俺の大事な人」
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