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マリアンネが薄暗がりに走りこむと、礼拝堂の石壁に寄りかかっていた姿が、さっと身を起こした。
ディルクだ!
深く帽子を被り、長いマントで全身を巻いていても、マリアンネは一目で見分けがついた。
瞬間足を止めた後、マリアンネはもう誰はばかることなく両腕を広げ、ディルクの胸に飛び込んでいった。
ディルクも、マントを後ろに払って、全身でマリアンネを受け止めた。 その体は、激しい渇望で小刻みに震えていた。
「マリー、俺の愛しいマリー ……!」
「もう元気になったのね。 脚が樫の木みたいにしっかりしてる」
「ああ。 もう馬に乗って半日駆け回っても大丈夫だ」
唇が合った。 一度ならず二度、三度と。 あまりに強く引き寄せられて、マリアンネは息をするのもままならなかった。
「ディルク……もうちょっと力を抜いて」
低い唸り声をあげてから、ディルクはしぶしぶ腕をゆるめた。
「離したくない。 このまま袋に詰めて、持って逃げたい」
思わずマリアンネは忍び笑いを漏らした。
「捕まえたウサギみたいに?」
「山賊の洞窟で見つけた金銀宝石みたいにだ」
ディルクは、走った勢いでピンが外れ、首筋から背中までふわりと垂れ下がったマリアンネの髪に、思い切り顔を埋めた。
耳を熱い吐息が覆った。
「君の身が心配だ。 陰謀を見すかされたと知ったら、ヤーコブ様が君をどんな目に遭わせるか」
「ばれる前に態勢を整えましょう」
マリアンネの声は揺るぎなかった。
「あなた達はもう、前から反撃を始めていた。 私が巻き込まれたことで、ギュンツブルクとグートシュタインの城主達にも危険が迫っているのを知らせられるようになったわ。 ヤーコブ様の裏をかけるかもしれない。 それに」
何よりも辛い事態が頭に浮かんで、マリアンネは身震いした。
「危険なのはあなたも同じ。 今度はヨアヒムが庇ってくれたけど、彼はあなたの親友だから、ヤーコブ様は絶対にあなたも疑うわ。 あなたに何かあったら、と思うだけで、心臓がちぎれるほど痛むの」
「俺もだ、俺も」
再び、二人はしゃにむに唇を重ね合った。
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