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表紙

緑の騎士 -66-
 フォン・グロート夫人の指が、自らのスカートの膝あたりをぎゅっと掴んだ。
 ここしばらく、彼女はどれほど不安だったろう。 マリアンネが正式な妻として城に入り、城主エドムントの心を捕らえ始めていることを、敏感な夫人は感じ取っていたはずだ。
 夫人の緊張と興奮を見ないようにしながら、マリアンネは付け加えた。
「教皇には、結婚を許す権限もおありです。 私が去った後は、この城にふさわしい方が奥方になれます。 教皇の結婚許可さえ出れば」
「わかりました」
 夫人の返事はかすれ、いや増す希望で途切れがちになった。
「エドムント様は、真面目な良い方です。 私が説明すれば、きっと事情をわかってくれるはず」
「では、さっそく準備にかかりましょう。 城の中には敵のスパイが必ずいます。 計画を悟られる前に先手を打たないと」
 二人はいっそう顔を寄せ、これからどう動くか具体的に詰めていった。




 二十分ほどのつもりが、一時間以上話し込んでしまった。
 マリアンネがひょっこり廊下に姿を見せると、待ちかねたロタールが大股で近付いた。
「どうだった?」
「思った以上に話のわかる人だったわ」
「よし!」
 眼をきらめかせると、ロタールはマントを被ったマリアンネを腕で庇い、すべるように階段を下りていった。


「まずどうする?」
「教皇に宛てる手紙を書きましょう。 あなたにお願いできたらいいんだけど。 字が見事だし、何よりあなたなら礼儀正しくて説得力のある文章を書いてもらえるでしょう?」
「人を丸め込むのがうまいって意味かい?」
 まんざらでもなさそうに、ロタールは微笑した。
「思慮深くて信頼できるって意味よ。 わかってるくせに」
「鳩の脚に結ぶのだから、要点を短くまとめるのが必要だな」
「ワイロの金額はどのぐらい要るかしら?」
「これぐらいなら出せると仄めかしておけば、向こうが返事に要求額を入れてくるんじゃないか?」
 ごく小声で話し合いながら、二人は階段を急いで下っていった。







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