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グレーがかったフォン・グロート夫人の眼が、大きく見開かれた。
「なんと大胆な……」
「そうでしょうか」
マリアンネは毅然として言った。
「今の教皇アレクサンデル様は、ボルジア家の出身で、僧職者とは思えない放蕩ぶりだとか。 お金の値打ちをよく知っている方としても有名です。
それに、悪を正すために使うお金なら、汚くないと思いますが」
「でも、ここからローマまでは二百リーグ(≒千キロ)以上ありますよ。 早馬を飛ばしても、片道二週間はかかるでしょう」
「話をまとめるだけなら、もっとずっと早くできます。 伝書鳩を飼っていて、連絡を取り合う修道院がありますから」
グロート夫人はフーッと息をついた。 そして、思いがけなく微笑した。
「あなたは、なかなかの陰謀家なんですね。 敵に回さないでよかった」
強く張っていたマリアンネの背中から、じわりと力が抜けた。 フォン・グロート夫人を味方につけることができたのだ。 これで反撃の第一歩が固まった!
アデライーデ・フォン・グロートがこの城における陰の実力者らしいのは、初めて顔を合わせたときからわかっていた。
このマルトリッツ城は、実に統制が取れている。 建物は清潔だし、馬や家畜、庭園やハーブ園にも手入れが行き届いて、召使たちは皆こざっぱりしていた。
それなのに、いわゆる家令がいない。 エドムントの腹心や守備隊長はしっかりしていて、召使頭もいるが、杖を持って城内を指揮する執事は存在しなかった。
ということは、誰か他の存在、奥方の代わりをできるほどの大物が、城を仕切っているわけだ。 それは、フォン・グロート夫人以外には、考えられなかった。
もう夫人は落ちたも同然だが、マリアンネは更に一押しした。
「後見人の件だけではありません。 エドムント様と私の結婚取り消しにも許可を頂きます」
夫人の顔から、拭ったように笑みが消えた。 瞳が今までになく真剣になった。
「それが本当にあなたの望みですか?」
「はい」
思わず大きな声を出しそうになった。
「たぶんご存じのとおり、私達の結婚はまだ成立していません。 床入りがすんでいませんから。
エドムント様は立派な方です。 ただ、私にはずっと以前から、心に決めた人がいるのです」
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