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フォン・グロート夫人は、わずかな間だけ瞼を下ろした。
それからゆっくり目を開き、マリアンネに鋭い光を浴びせた。
「あの騎士、ヨアヒム・メーベルトと言いましたか、彼はなかなか美しいそうですね」
「昔はそばかすと擦り傷だらけでした」
マリアンネはにべもなく答え、真剣な眼差しで、夫人の計り知れない表情を探った。
「幼なじみは時として、家族よりも大切なものです。 そう思いませんか?」
「義賊でも、盗賊に変わりありません」
「そう言いふらされているだけだったら?」
マリアンネの声が熱を帯びた。
「権力者は、事実をねじ曲げることもできます。 野望に取り付かれていれば、良心の声が聞こえなくなることも」
「その権力者とは、奥方様がよくご存じの方ですか?」
二人の目が合った。 固唾を飲んで、マリアンネは頷いた。
「そうです。 私も裏切られました。 つい先ほどまで、何も知らずにいたのです」
「そのお言葉を、私に信じろと?」
「話の筋道をたどっていけば、信じられるはずです。 私が野望の手先なら、エドムント様に媚びて、一日も早く跡継ぎを生もうとしたでしょう。 そしてその後すぐ、エドムント様は不慮の事故か突然の病で世を去ることになる」
またフォン・グロート夫人の手が喉に触れた。 息が苦しくなったかのように。
やがて、少し乱れた声が尋ねた。
「そこまで私に話したからには、何か考えがおありなのですね?」
「ええ」
膝を更に進め、マリアンネは声を落とした。
「その権力者は、まず隣国グートシュタインの実権を握ろうとしています。 名君と呼ばれたユリアーン様を死なせた後は、まだ十七歳のオットー殿が跡継ぎ。 彼の後見人になれば、権力は思いのままですから」
「確かに選ばれそうですね」
グロート夫人は顔をしかめた。
「たとえ選ばれても、くつがえす方法はあります。 選帝侯たちとローマ教皇を味方につければ」
息を引いて、夫人はマリアンネの懸命な顔をまじまじと見つめた。
「奥方様、それはどういう……」
「お金です」
ずばりと、マリアンネは口にした。
「私につけられた多額の結婚資金を、エドムント様とオットー殿を救うために使いましょう!」
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