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「クレメンティア様は……不慮の事故で亡くなられたのです」
「どのような?」
素早くマリアンネに問い返されて、フォン・グロート夫人は表情を引き締めた。
「お部屋で転び、暖炉の角で頭を打ったのが元で。 私はそう聞いています」
「もしかして、そのとき身ごもっておられたのでは?」
とたんにグロート夫人の眼に、炎が燃え上がった。
「あなたはまさか、私がクレメンティア様をどうにかしたと……」
「いいえ」
やはり前の奥方クレメンティアは跡継ぎを産むところだった。 自分の推理が正しかったのを知って、マリアンネは背中を冷たいものが這い上がるのを感じた。
「私は、二つの城で起きた事件を同じ者が操っていると言いました。
この城の中はいざ知らず、あなたがグートシュタインに暗殺者をもぐりこませて、何の得があるでしょう?」
グロート夫人の視線が逸れた。 彼女は窓に顔を向けて、一心に何かを考えているようだった。
その横顔に、マリアンネは誠意を込めて語りかけた。
「私は政略結婚で、この土地に嫁いできました。 貴族の結婚は皆そのようなもの。 だから特に疑いは持たなかったのです。 初めのうちは。
でも、結婚祝の宴で盃に毒を入れられて」
グロート夫人は動かなかった。 不自然なほど背中を真っ直ぐにして、窓に目をやっていた。
思わず微笑みたくなりながら、マリアンネは続けた。
「あのときは驚いたし、少し取り乱しました。 ですが、考えてみると、あまりにも不自然でしたね。 盃は金で、毒は検出しやすい砒素。 しかも、入れすぎで底に少し溜まっていたような気がします。
あれは警告だったのですね? エドムント様に近付くなという」
「何をおっしゃっているのか、わかりかねます」
グロート夫人は、つんとして答えた。
マリアンネは、更に身を乗り出した。
「あなたは賢い方です。 悪の気配を、なんとなく感じていたのではありませんか? だから、愛するエドムント様を護ろうとした」
喉が干からびそうになったが、マリアンネは頑張って、最後まで言い切った。
「私が緑の騎士を護ろうとしているように」
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