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緑の騎士 -60-
 マリアンネは、ますます当惑した。
「でも、初めて緑の騎士に会ったときに、代官の奥さんを襲ったと言ってたでしょう?」
 ディルクは苦笑した。
「あれは、半分だけ本当。 税金を勝手に上げていた代官をつるし上げた帰りだったんだ。 ただ、本当の事情を話すと、君まで危険に巻き込むと思って」
「ヤーコブ様は、緑の騎士の正体を知らなかったのね?」
「ああ、知っていたらすぐ殺されたはずだ。
 でも、俺を疑っていたのは確かだよ」
と、ディルクは静かに答えた。 すぐにロタールが言葉を添えた。
「君との仲を引き裂かれた後、ディルクは女に見向きもしなくなったからな。 表面は静かでも、恨みは思ったより根深いんじゃないかと、ヤーコブ殿は気付いていただろう」
――そうか、だからヨアヒムは、自分が捕まったほうがいいと言ったんだ――
 マリアンネは、彼がディルクの名を出さないよう必死だったのを思い浮かべた。 ヨアヒムなら普通の取り調べを受けるだけだ。 だが、昔から因縁のあるディルクが反逆していたと知れば、ヤーコブは八つ裂きにしても飽き足りないだろう。
「ヤーコブ様は、ここギュンツブルクでもこっそり強盗させていたの?」
「いや」
 ロタールが、涼やかな眼を上げて首を振った。 マリアンネは少し元気付いた。
「それじゃ、ここの人たちは緑の騎士に恨みはないし、賞金もかけてないわね」
「そうだ」
「じゃ、ヨアヒムを救い出すことはできるかもしれない。 ただ……」
「ただ?」
「ヨアヒムとディルクは親友だわ。 やはりディルクが仲間に入っていると思われて、暗殺される危険は大きくなったわ」
 急に、いても立ってもいられなくなって、マリアンネは呼吸がせわしくなった。
 そのとたん、頭にとんでもない案が浮かび出た。
「私、話しに行ってくる!」


 唐突に言われて、男二人はあっけに取られた。
「誰と?」
「フォン・グロート夫人」
 ロタールが目をむいた。
「エドムント様の愛人か?」
「そう」
 マリアンネの答えは、きっぱりしていた。
「敵の敵は味方かもしれない。 彼女は表に出てこないけど、相当の実力者だわ。 それに、心からエドムント様を愛している。 だから、うまく話せば」
「何を! 緑の騎士のからくりか?」
「それは絶対話さないわ。 信じて!」
「もちろん、君を信じてるが」
 ロタールは、心もとない様子でマリアンネを見つめた。










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