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緑の騎士 -59-
 ロタールはすぐ、きりっとした視線を向けてきた。
「話を聞いたかい?」
 それから、マリアンネの表情をさっと観察して緊張を緩め、わずかに微笑した。
「やっと仲直りできたんだね」
「ええ」
 答えたとたん、自分の声ではないような気がした。 我慢できなくて、マリアンネは小走りにロタールに近付き、頬に音を立ててキスした。
「ありがとう!」
 それから、急いで彼の手を掴んだ。
「来て。 話せるだけの事情を話して。 今の私の立場をどう使えるか、私にも考えさせて」
「わかった」
 瞬時に顔を引き締めると、ロタールは足を踏み出した。


 ロタールの部屋で三人になってから、二人の男が打ち明けた内容は、マリアンネを驚かせることばかりだった。
 ヤーコブは現在二十七歳。 ロタールやヨアヒムたち三人組とはニ、三歳しか違わないが、子供の頃から打ち解けたことはなかったという。 ヤーコブは常に、未来の領主として振舞っていた。
「だから、あれほどの野心家だと気付かなかった。 怪しいと思い始めたのは、金持ちの巡礼がひんぱんに強盗に襲われるようになってからだ」
 寝台で上半身を起こして、ディルクがロタールの話に付け加えた。
「金持ちや貴族は、護衛を雇い、それなりの準備をして巡礼に来る。 お忍びで出るときは、正体が知れないように用心するものだ。 それなのに、なぜか強盗にわかってしまう。 誰か身分の高い者が情報を漏らすからだとしか思えなかった」
「最初に気付いたのはヨアヒムだ。 家が国境に近いからな。 それで、疑いをディルクに話し、ディルクからわたしに伝わった」
「シギーには?」
 名前が出ないので、マリアンネが訊いてみると、若い騎士二人は目を見交わした。
 気の進まない様子で、ディルクが答えた。
「シギスムントは、ヤーコブの手先なんだ」
 マリアンネは息を呑んだ。


 ブライデンバッハは豊かな国だが、ヤーコブはそれ以上に金が欲しかった。 陰謀には、表に出せない資金が必要だ。 それで、上流社会にスパイを潜入させて、情報を探り、襲撃や恐喝の材料にしていた。
 マリアンネは困った表情で、前の二人を見比べた。
「待って。 強盗をさせていたのがヤーコブ様なら、どうして『緑の騎士』も追いはぎなの?」
 ディルクの口元に、暗い笑いが浮かんだ。
「もちろん違う。 逆だったんだ。 俺たち三人で手分けして巡回し、強盗を見つけると闇討ちして、盗品を返していた」










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