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表紙

緑の騎士 -51-
 渦を巻いた頬髯と、同じほど乱れた毛並みの眉を持ったベックマンを、マリアンネは真正面から見つめた。
「ベックマン隊長、貴方はいったい何の権限があって、私の側近を捕らえたのですか」
 それは質問ではなく、はっきりとした非難だった。 ベックマンは虚を突かれた様子で、単調に答えた。
「この者は、ブライデンバッハの兵士たちに追われて、ズィルバーの森を駆け抜けてきたのです。 我々が兵士たちを押し返すと、彼らが口々に、こいつ……この者こそ追いはぎの『緑の騎士』だと言うもので」
「証拠は? まさか昼日中から面を被って強盗を働いていたわけではないでしょう?」
 マリアンネの言葉は辛辣だった。 隊長はますますひるんだ。
「いや……しかし、我々が捕まえて問いただしたところ、そう思うなら思えという生意気な返事で」
 莫迦、どうしてこんなときに逆らうの、と、マリアンネは横目でヨアヒムを睨んだ。 ヨアヒムはまったくマリアンネと視線を合わせようとせず、首を半分回したままだった。
「今も言った通り、この人は兄のヤーコブが私につけた側近の一人です。 少々ひねくれ者で口が悪いので、誤解されやすいのですが、立派な騎士だし、相応の報酬を得ています。 その彼が、何が悲しくて、危険な追いはぎなどするのですか!」
「でも……」
「貴方は、下っ端の兵士が賞金目当てに口走ったことを、そのまま信じるのですか?」
「いえ、奥方様、それは……」
「尋問する前に、身体検査なさい。 それで盗品や仮面が出てくれば、私は引き下がります」


 賭けだった。 それも、相当危険な。
 だが、幸いなことに、ヨアヒムは緑の仮面を身につけておらず、もちろん盗品の財布や宝石はどこにも隠していなかった。
 隊長命令で外に出て、ヨアヒムの馬を調べた部下も、何ひとつ怪しいものはなかったと報告した。

 マリアンネは勝ち誇った。
「思った通りだった。 すぐメーベルト卿のいましめを解いてくれますね」
 隊長は、不機嫌な顔で、ヨアヒムの手枷を外させた。 しかし、牢を出すことは頑として断わった。
「わずかでも疑いがあれば、エドムント様に報告しなければなりません。 お戻りまでは、ここにいてもらいます」


 仕方なく、マリアンネは手首をさすっているヨアヒムに更に近付き、聞こえよがしに叱った。
「許可なくブライデンバッハに戻ったりするから、こんな目に遭うのです」
「申し訳ありません」
 ヨアヒムはだらけた口調で呟き、足を引いて大げさにお辞儀した。
 すぐ前にいたため、埃と鞍の革と、健康な男の体臭の入り混じった匂いが、ふわりとマリアンネまで届いた。


 え?


 瞬時に、マリアンネの顔から血の気が引いた。








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