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マリアンネは椅子から立ち上がった。
そこで、動けなくなった。
口の中が一瞬で干上がり、目もからからに乾いた。
興奮と恐れの入り混じった侍女たちの声が、木枯らしのように耳に吹き寄せた。
「国境のこちら側でも追いはぎをしていたの?」
「そうなんでしょうね。 そもそも強盗に国境なんて関係あるのかしら」
「よくこの国やグートシュタインに逃げ込んでいるという話は聞いたけど」
「こっちから見ると、その逆をやっていたのかも」
耐えられない……。
マリアンネは意識が混濁〔こんだく〕してくるのを感じた。 盗賊は、捕らえられれば縛り首だ。 身分があれば、斧で打ち首になるかもしれないが、どちらにしても命はないのだ。
気を失いそうになった瞬間、グッとマリアンネを引き止めるものがあった。
――勝手に気絶している場合じゃない。 彼は誰よりも大切な人じゃないか。 全力を尽くして救う時だ。 たとえどんな手段を使っても!――
不幸中の幸いで、城主のエドムントは留守にしている。 この城の指揮を取れるのは、奥方のマリアンネなのだ。
そう気付くとすぐ、マリアンネは背筋を伸ばし、足を踏みしめた。 虚ろになりかけた眼に、光が戻ってきた。
「すぐ下に降りて、事情を確かめます。 アガーテ、ダグマー、ついてきて」
「はい」
底力のある声で命じられて、二人の侍女は一もニもなく従った。
アガーテが着せかけた繻子の上着を、きちんと引っ張って整えると、マリアンネは固い表情で階段をすべるように下りた。 城郭の前庭はすでに静まっていて、番兵の他には数人の召使が顔を寄せ、噂を交わしているだけだった。
マリアンネは周囲を見回してから、番兵の一人を呼んで尋ねた。
「緑の騎士と名乗る盗賊が捕まったというのは、本当ですか?」
「はい、奥方様」
番兵はかしこまって答えた。
「で、その者は今どこに?」
「ベックマン隊長が牢に入れました。 エドムント様がお戻りになるまで、処分が決められませんので」
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