表紙目次文頭前頁次頁
表紙

緑の騎士 -46-
 ニ日後、グートシュタイン国の中心となるネーベル城で、前領主の葬儀が行なわれるという通知が届いた。
 頭痛が完治したエドムントは、愛馬のバルタザールに乗って隣国へ行くことにした。 マリアンネは、ついてくるように言われなかったため、普段着のまま遠慮がちに正門まで見送りに出た。
 侍女たちに挟まれ、そっと姿を現した妻を見て、エドムントの表情は和らいだ。 馬をいったん部下に任せると、彼はマリアンネに歩み寄り、優しく手を握った。
「又従兄弟のユリアーンが急死して、葬式に出なければならなくなった。 今後の相談もあるから、すぐには戻れないだろう。 留守中に困ったことがあれば、ボーデに申し付けなさい。 遠慮せずに。 わかったね?」
「はい」
 マリアンネは、できるだけぎこちなくならないように微笑んだ。 勘違いとはいえ、彼の頭にコブを作ってしまったのに、こう親切にされると気が咎めて仕方がなかった。
 握った手を持ち上げ、マリアンネの目を見つめたまま軽くキスしてから、エドムントは馬上の人となった。 彼が十人ほどの部下を引き連れて、朝もやの中に姿を没していくのを、マリアンネは黙って見送った。
 城内に引き返すとき、アガーテが耳元で囁いた。
「殿様は貴方に惹かれていますね」
「そんなこと。 妻として大事に扱ってくれているだけよ」
 当惑して、マリアンネは囁き返した。 自分でもエドムントの視線に意外な熱っぽさを感じていただけに、余計打ち消したい気持ちに駆られた。
「押し付けられた妻に本気になるわけは……」
「充分ありますよ」
 アガーテはわけ知り顔で言った。
「貴方は昔から、ご自分の魅力に気付いていたはず。 だからこそ、あんな変装をして騒ぎの元になるまいとしていたんでしょう?」
「ちがうわ!」
 今度こそ本気で、マリアンネはアガーテにくってかかった。
「私はヤーコブ様たちに似ているのを隠したかっただけ! そのせいで、私は恋を失ったのよ! この人さえいれば、他には何もいらないとまで思いつめたのに」
 そこではっとなって、マリアンネは喉に手を当てた。 今まで誰にも打ち明けなかった心の傷を、思わず暴露してしまったことに愕然として。









表紙 目次前頁次頁
背景:Star Dust
Copyright © jiris.All Rights Reserved
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送