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夕方になって、奇妙なことが起きた。 粗い麻の上着をなびかせ、汗びっしょりの馬に乗った男が、凄い勢いで東門から入ってきたのだ。
その男は、馬が止まり切らないうちに飛び降り、城に駆け込んでいった。 ロタールと楽団員たちを廊下まで送っていったマリアンネは気付かなかったが、侍女のダグマーが素早く下のざわめきを聞きつけ、階段を下りて調べに行った。
五分で戻ってきたダグマーは、興奮ぎみだった。
「グートシュタインの領主様が、亡くなられたそうです!」
マリアンネは、アガーテと鋭く視線を交わした。 雨の中を大急ぎで戻っていった紋章付きの馬車が記憶によみがえった。 あれには、グートシュタインからの客が乗っていったはずだ。 一足先に領主の死を知らされて、慌てて帰城したのだろうか。
「死因は?」
マリアンネが尋ねると、ダグマーは顔を寄せて小声になった。
「転落事故だとか。 塔のバルコニーが壊れていたようです」
マリアンネは眉を寄せ、アガーテから前に聞いたギュンツブルク並びにグートシュタインの領主関係を思い出そうとした。
「跡継ぎは、たしかオットーとかいう……」
「そうです。 オットー・グラウブナー様。 まだ十代ですよ」
そこでアガーテは、ちょっと狡そうな表情になった。
「亡くなった領主のユリアーン様に少しも似ていませんでね。 本当のお子さんかどうか、疑問だという人もいます」
「婚礼の祝賀に来ていらっしゃいましたね」
ダグマーが、ポッと赤くなりながら口を挟んだ。
「カールした金髪の、きれいな殿方でしたわ」
「おつむも見かけほど立派だとよろしいんですけど」
アガーテがチクッと辛辣な皮肉を言った。
「これから一族会議が開かれ、神聖ローマ帝国としての継承会議が続きます。 周りがしっかりしていないと、十七の少年に乗り切れるかどうか」
眉をわずかにしかめたまま、マリアンネは思い巡らせた。
――私たちの、つまりマリア姫と伯爵の婚礼が決まってから、立て続けに色々な事件が起きている。 これは単なる偶然なのか。 それとも、何かの陰謀が始まっているのだろうか――
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