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「このお城で?」
思わずアガーテの声が高くなった。
ベルントは、淡々とうなずいた。
「はい。 アデライーデ・フォン・グロート様は、ミカエラ・フォン・ドナウト夫人のお子様です。 ミカエラ様は、当主エドムント様の母君の妹で、御主人を戦で失い、この城に身を寄せておいででした」
話を頭の中で整理しようとして、マリアンネの額に皺が寄った。
「つまり、さっきのご婦人はアデライーデというお名前で、わが夫の従姉妹なのね」
「そうです」
ベルントは、もう一言付け加えた。
「殿様の母君とミカエラ様は双子でした」
それから自室へ戻るまで、一行はまったく無言になった。
マリアンネは磨かれた石の床をぼんやり目でたどりながら、考えた。
――エドムントとアデライーデは、双子の母から生まれた従兄妹同士。 小さい時から同じ城で育った幼なじみなのね――
あの二人には絆がある。 いや、ただの絆じゃない。 身も心も深いところで結ばれている。
隣りを歩くアガーテも同じことを感じているようで、居心地が悪そうに小さく咳払いするのが聞こえた。
目を伏せ、沈黙の中で回廊を流れるように歩いていくマリアンネを、太い石柱の陰から見つめている姿があった。
男は目深に紺色の羽根付き帽子を引き下げ、彫像のように動きを止め、ただ視線だけを横にずらしてマリアンネを追っていた。
――マリアンネ……俺の小さな女王様。 どんなに君を大切に思っているか、いつかわかってもらえる日が来るだろうか。
君の甘い唇、熱い肌、あのサテンのような手触り。 もう一度、君の全身をキスで覆い尽くしたい。 上気する愛らしい顔を、この目で見たい。
そして……そして、俺を見てほしい。 どんな言葉を投げつけられても、俺は耐える。 ずっとこらえてきたが、もう限界だ。 自分が何をし始めるか、もうわからなくなってきてるんだ。
マリアンネ、愛しい人。
一度でいいから、光の中で言いたい。 君を愛してる。 どうにもならないほど愛していると――
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