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マリアンネの背筋が、ピンとまっすぐになった。
「ほんと?」
「ああ、自然にそうなると思うよ。 少なくとも後一ヶ月ぐらいは」
やがて、曇り空の下にマルトリッツ城が見えてきた。 式を挙げるためにやって来た最初の印象と異なり、全体が重い灰色に翳り、覆い被さるようにそびえ立っていた。
三人の騎士たちが声をかけるまでもなく、馬上にマリアンネの白い顔を認めるとすぐ、見張りが門番に知らせて、城門が開いた。 あたふたと出てきたのは、婚礼の日に国境まで迎えに来たボーデ隊長だった。
「心配しましたぞ。 ご無事で何より」
ロタールが身軽に馬から飛び降り、マリアンネをそっと抱き下ろした。 同時に下馬したヨアヒムは、鋭い視線を左右に投げかけながら尋ねた。
「捜索に行った他の隊は戻ってきましたか?」
「いや、まだだ。 君達が最初だ」
ボーデの目が、しんがりの馬に集中した。
「あの死体は?」
ディルクが馬の手綱を取って、ボーデの傍まで連れてきた。 そして、押さえた低い声で説明した。
「こいつらが奥方を襲っていました」
「そうか」
ちらりと、血色の悪いマリアンネの横顔に目を走らせてから、ボーデは背後に控えた部下に、犯人たちをくくりつけた馬を裏庭へ連れていかせた。
城の庭に、少しずつ人々が出てきた。 その中で一際目立ったのが、一対の角にヴェールを取り付けた帽子が背後に飛ぶほどの勢いで走ってきたアガーテを初めとする侍女たちだった。
四人はたちまちマリアンネを取り囲み、スカートを穿いた護衛船のようにガードして、正面口に引き返した。
「どこかお怪我は?」
「ないわ。 あってもかすり傷よ」
どっと疲れがにじんで、マリアンネは聞き取りにくい小声しか出せなかった。 足を引きずるマリアンネに、アガーテが肩を貸して寄りかからせた。
「部屋までもう少しの辛抱ですよ。 たっぷりのお湯を運ばせましょう。 埃を落としたら、マッサージをしてあげます。 クルミのケーキとミルクを持ってきましょうね。 お好きでしょう?」
次々と繰り出される低音の慰めは、マリアンネの心を温かく癒した。
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