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緑の騎士 -32-
 その瞬間、マリアンネの心に決して消えない火が灯った。
 誰かに一度でも、君だけを愛すると本気で言ってもらえたら、この世に生きた証しになる。 ましてそれが、心底愛した人の言葉なら!


 二人は一つのマントにくるまり、夢さえ見ない深い眠りについた。
 寝入る前、緑の騎士はマリアンネの耳に囁いた。
「ここで待っていてくれ。 絶対よそへ行かないように。 何が起きても動くな。 必ず助けが来るから」


 空がまだ暗い内に、男はそっと立ち上がり、マリアンネに背を向けて身支度をした。
 彼の動きと共に目を覚ましたマリアンネは、闇の中で視線をこらし、恋人の輪郭を見分けようとした。 だが、すらりとした若い男としか分からず、それなら手と唇で探りあて、全身でなじんた感触で、とっくに察していた。
 覆面を被り、その上から帽子を載せた後、男はマリアンネに被さっているマントをそっと抜き取った。 そして、代わりに彼女のマントを拾い上げ、優しい手つきで首元にたくしこむようにかけた。
 足音が岩を回っていき、消えかけた火に枝を置いて燃え上がらせる気配があった。 それから、低い馬のいななきと、あぶみに靴の乗る音。
 ひそやかな蹄の響きが、次第に遠くなっていった。


 まだ夜明け前だが、マリアンネも起き上がった。 服をまとって、燃え盛る火の前に腰を下ろすと、昨日からの目まぐるしい出来事が頭を回り、不安と喜びが入り混じった落ち着かない気分が襲ってきた。
 ここで待てと、彼は言った。 何が起きても驚かないようにと。 ということは、びっくりするようなことが起きるという警告なのか?
 たった半日のうちに、殺されかけ、殺したか、殺しかけた。 もう騒ぎは沢山だ。 ただ、驚きというのが、正体を明かして迎えに来るということだったら……。
 そうならどんなに嬉しいだろう! マリア姫だって配下の騎士と駆け落ちした。 もしかすると、もし万一 ……。
 夢見ているうちに、本当に寝込んでしまった。




 日がだいぶ高くなってから、ようやくマリアンネは目を覚ました。
 前の焚き火は、とっくに灰になっている。 あくびをしながら立ち上がると、マリアンネは一頭だけ残っている馬の手綱を引いて空き地の隅に行き、朝露の残った草を食べさせた。
 後どのくらい待てばいいのだろう。 ゆっくりと朝日に光る森を見渡していると、右前方の木陰で、何かが動いた。









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