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やや時を置き、気持ちを静めてから、緑の騎士は相変わらずしゃがれた中性的な声で質問した。
「とっさに逃げ出した意味はわかった。 だが、これからどうする? 二頭の馬と手持ちの金だけでは、遠くへは行けないよ」
「ええ……」
改めて考えると、胸が塞〔ふさ〕がった。 前に家出したときより、状況は遥かに悪化している。 ひょっとすると夫殺しになっているかもしれないのだ。
焚き火の大きさは充分になった。 すぐくべられるよう、小枝を横に積み上げた後、男はゆっくり立ち上がり、腰の両横に手を当てた。
「一つ考えがある。 危ない賭けだが、成功すれば君は無事に、城主夫人でいられる」
びっくりして、マリアンネも飛び上がるように立った。
「でも私は……」
「殺されかけた。 そのことをなぜ君の護衛に言わない?」
「言えなかったの」
マリアンネは口ごもった。
「席が離れていたし、それに」
「それに?」
「私は本物のマリア姫じゃないから、真剣に守ってはもらえないと思って」
言ってしまった。
こんな致命的な秘密を、マリアンネは名前も知らない男に打ち明けてしまった。
心臓がのしかかるように重くなったが、後悔はしなかった。 それほど、マリアンネは緑の騎士の誠実さを無条件に信じていた。
その気持ちが伝わったらしい。 男は一瞬の間を置いた後、深く身を折って前にかがめるとマリアンネの手を取り、唇に持っていった。
「君が誰だろうと、わたしの大事な人であることに違いはない」
マリアンネは、震える息を吸い込んだ。 好きな相手に大事な人と思われるほど素晴らしいことが、この世にあるだろうか。
「嬉しいわ」
そう呟くと同時に、もう我慢できなくなって、マリアンネは彼の胸に飛び込んだ。
男はしっかりと抱き返し、軽々と両腕で持ち上げて、低い岩陰に運んでいった。
短い道中、彼は囁き続けていた。
「護衛は必ず君を守る。 国の威信と未来が、彼らの出世が、この結婚にかかっているんだから。 妙な遠慮はせず、すべてを打ち明けて庇ってもらえ」
嬉しさに泣きそうで声が出せず、マリアンネは繰り返しうなずいた。
夜の帳〔とばり〕に包まれた暗がりで、二人は数え切れないほどキスし合った。 男の情熱は前より激しく、首、肩、胸と痛いほど吸われ、全身くまなくほぐされて、マリアンネは何度も声を上げた。
「あなたの、あなただけのものになりたい」
切なく呻いたとき、不意に顔を強く挟まれた。 男の息が、炎熱のように頬を焼いた。
「俺は間違いなく、君一人のものだ」
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