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こんな……! まさか、こんなはずは……。
途方に暮れて、マリアンネは石の床にへなへなと座り込んだ。
半ば放心状態で、それでも何とか自分を正当化しようとして、マリアンネはぶっ倒れたまま動かないエドムントの懐を探った。 ガウンの下は、薄い夜着一枚。 武器はどこにも持っていなかった。
暗殺なら部下に命じればいい。 わざわざ領主本人が、しかも丸腰で、そっと訪れる理由といえば……。
エドムントは、床入りしようとして新妻の元に忍んできたのだ。 今夜はゆっくり休めなんて言っておきながら、まるで愛人のベッドに通うように、こっそりと。
信じられなかった。 なぜなら、領主の新床は公開が決まりだからだ。 司祭や高官が証人となって、めでたく結ばれなければならないのだ。 ハレンチな習慣だが、結婚も契約だから仕方がなかった。
少し揺すってみたが、エドムントは微動もしなかった。 目一杯殴ったから当然だ。 死んでしまったんだろうか。 どうしよう……。
遠くで物音がした。 マリアンネはびくっとなり、大急ぎでエドムントの足首を掴むと、部屋へ引きずり込んで、ドアを閉じた。
こうなったら、もはや逃げるしかない。 真っ暗な部屋の中で、マリアンネはまずベッドの下に潜って守り刀を拾い上げ、それから手探りで革の財布を握って紐を首にかけてから、窓を開けて庇に出た。
何かと鍛えておいたのが役に立った。 斜めの屋根を伝い、月の光を頼りに庇を掴んで、一階の屋根に飛び降りた。 それからは、わりとたやすく地面にすべり降りることができた。
首を縮めるようにして、マリアンネはこそこそと城壁を伝い、馬屋に急いだ。 番人は奥で寝ているようだ。 藁のすれる音と、寝返りを打ちながら唸る声が聞こえた。
いい馬を見つくろっている時間はない。 前方にいた馬に鞍を置き、替え馬としてもう一頭の手綱を握って、マリアンネは庭を突っ切って裏門を目指した。
城門は、外には堅固だが、中からは意外に開けやすい。 そして今夜は結婚の祝宴だ。 見張りは酒で寝入っているだろうと思ったら、実際はもっとたやすかった。 そもそも、誰一人見張っていなかった。
掛け金を外してゆっくり引くと、縦長の門は揺れながら開いた。 マリアンネは馬をなだめながら門を抜け、外に出て慎重に閉じた。
それから、鞍をつけたほうの馬に飛び乗ると、一目散に走り出した。
夜道は危険だ。 方角もわかりにくい。 北極星を頼りに、マリアンネは東へ進んだ。 もう馬を走らせてはいない。 城から一リーグほど遠ざかったので、普通の速度で歩かせていたとき、背後から不意に蹄の音が近付いてきて、鋭い口笛が聞こえた。
マリアンネは肝を潰した。
追いはぎだ!
慌てて馬の腹を蹴ったが、スピードが出る前に、やすやすと大きな馬が横に並びかけてきた。
かすれた声が耳に届いた。
「落ち着け。 俺だ。 緑の騎士だよ」
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