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表紙

緑の騎士 -28-
 侍女たちの退出を見届けるように言われているらしく、小姓は開いた戸口に頑張っていた。 さすがに背を向けてはいるが、あまり奥行きのない部屋なので、ヘアピンを落としても聞こえそうだ。 マリアンネはアガーテに事実を伝えることができず、不安で体中が強ばった。


 全員ほぼ無言のまま、マリアンネを長く裾を引いた夜着に着替えさせると、四人の侍女は腰をかがめて一礼し、すべるように部屋を出ていった。 扉の傍で、アガーテが心配そうに振り返ったが、すぐ小姓に促されて、姿を消していった。
 扉がしっかり閉じられた。 足音が遠ざかっていく。 マリアンネは衣装箱に歩み寄って、黒っぽいマントを手早く取り出し、羽織った。 少し気温が下がってきたし、別の意味で体が冷たくなってきたというのもあった。
 壁の燭台を吹き消し、灯りを枕元の蝋燭だけにして、ベッドに腰かけていると、やがて外の廊下で靴音がした。
 マリアンネは神経をとぎすまして、耳を傾けた。 どうやら男が一人で、こっちへ向かってきているようだ。 堂々とした歩き方ではない。 どちらかというと、こそこそしているように感じられた。
 暗殺者だ!
 マリアンネは飛び上がって、守り刀をしまっておいた枕の下に手を入れた。 ところが、焦っていたため指がすべり、ベッドの向こう側の暗い隙間へ落としてしまった。
 仕方なく、マリアンネは暖炉の火かき棒を拾い上げた。 それから、残した灯りを素早く吹き消すと、マントの裾を腰に巻き、前でギュッと縛った。
 戸口へ忍んでいって、横で待機していると、忍び足の靴音が部屋の前で止まり、ゆっくりとドアが開いた。
 廊下の松明〔たいまつ〕がうっすらと背後から照らして、侵入者が男だとマリアンネに知らせた。 彼は燭台を持っていない。 城の中は真っ暗なところが多いのだが、無灯でやってきたというのは、非常に怪しかった。 火かき棒を握り直すと、マリアンネは侵入者が踏み込むのを待ち構えた。
 男は、用心深く部屋を覗き、爪先立ってこっそり入ってきた。 後頭部が見えたところで、マリアンネは両腕を振り上げ、思い切り火かき棒を振り下ろした。


 ガツンという音が響き、男はまず前によろめいた。 それから頭を抱えるようにして後ろに揺れ、そのまま引っくり返った。
 胸をとどろかせながら、マリアンネは大の字になっている男を覗きこんだ。 大丈夫だろうか。 頭を打ち砕くか、せめてしっかり気絶させておかないと……
 次の瞬間、マリアンネは火かき棒を取り落とし、両手で口を塞いだ。 目がどんどん大きくなって、恐怖の色に満ちあふれた。
 敷居の上に長くなって伸びているのは、寝巻きの上にガウンをまとった新婚の夫、エドムントその人だった。









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