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マリアンネは、からからになった唇をなめ、慎重に前の料理を観察した。
隣りと同じ色をしている。 粉をふりかけた形跡もない。 食欲は吹き飛んでしまったが、怪しまれるといけないので、あちこちを少しずつつまんで食べた。
葡萄やオレンジには毒を入れにくい。 果物類は大丈夫だろうと思い、すぐに運ばれてきたワインと交互に口へ入れていると、せわしない足取りで花婿が戻ってきて、隣りの席についた。
「中座して失礼した」
「いえ」
マリアンネは努力して微笑んだ。 そして考えた。 この人は知っているのだろうか。 自分が企んだから、わざと席を外して疑われまいとしたのか?
旺盛な食欲で肉を平らげると、エドムントはマリアンネにもしきりに勧めた。
「なかなかの出来栄えだ。 食べてごらん?」
人前で食べさせようとする物は、かえって安心かもしれない。 マリアンネは肉を無理して口に運んだ。 確かにおいしかった。
満足そうに眺めていたエドムントは、やがて間が悪そうに切り出した。
「今夜はさぞ疲れただろう。 旅に式に、宴まで立て続けだったからな」
「思い描いていた以上に立派な宴会で」
マリアンネは改まって言った。 エドムントは喜んで、また新妻の手を取り、両手に優しく包みこんだ。
「君にはくつろいだ幸せなときを過ごしてもらいたい。 今宵は思い煩うことなく、一人でゆったりとお寝みなさい」
ほう?
新床は、どうやら先に延ばすらしい。
聞いてすぐ感じた嬉しさは、やがて灰色の恐怖に取って代わった。
―― 一人で寝かせて、毒が回るのを待つ気かしら。 それとも、念には念を入れて、暗殺者を差し向けるつもり?――
すぐ目の前にある青い瞳は、酒のせいでややトロンとしているが、偽りや邪気は感じられない。 これが芝居なら、エドムントは大した役者だ。
ともかく、一人になれるのはありがたかった。 部屋に入ったら、すぐ善後策を考えなければ。 予想を遥かに上回る展開に、マリアンネは気持ちを保つのが精一杯だった。
食事の後は、舞踏が待っていた。 優雅にバスダンスを舞っていても、マリアンネの心境は踊りどころではなかった。 騎士三人組の誰かが傍に来てくれればいいのだが、あいにく彼らは、男女に分かれた荘重な行列の別組に入れられていた。
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