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表紙

緑の騎士 -25-
 やがて、青い服を着た金髪の小姓がエドムントに歩み寄って恭しく腰をかがめ、何かを囁いた。
 とたんにエドムントは落ち着きを失くし、中腰になりながらマリアンネに断わりを入れた。
「ちょっと用事で……。 どうぞくつろいで食べていてくれ。 わたしが戻るまで待つ必要はないから」
「はい」
 むしろほっとして、マリアンネは慎ましく答えた。


 見るともなく見ていると、エドムントは急ぎ足で大広間を横切り、テラスに近い柱の陰に入った。 そこで誰かと話をしているらしい。 ときどき大きい身振りが混じって、スラッシュの入った紺と金色の袖が激しく上下した。
 視線をテーブルに戻すと、少し離れた席でロタールが盃を上げているのが目に入った。 乾杯しようと言っているのだ。 小さく頷き返して、マリアンネは前に置かれた自分用の盃を手に取った。
 そのとき、ふと疑問が心をかすめた。
――周りはみな銀のゴブレット。 どうして私のだけが金色をしているの?――


 まさかとは思った。 あまりにも見えすいているじゃないか。
 でも、用心に越したことはない。 盃を持ち上げてロタールに示した後、一口飲むふりをしてから、マリアンネは何食わぬ顔で、銀の指輪を中にすべり落とした。
 すると、指輪はみるみる黒ずみ、光沢を失った。


 マリアンネは、ごくりと唾を飲み下した。
 背中を恐怖の冷たい汗が伝った。
 いったい何なんだ! 婚礼のまさに当日に、もう暗殺されそうになってるじゃないか……!
 反応の強さからみて、毒は相当多量に入っているようだ。 しかし、このめでたい席上で、砒素を盛られたと騒ぎたてるわけにはいかない。 味方の兵士は僅か三十人だし、犯人を特定する手段もない。
 すぐマリアンネは判断した。 そして、盃を手に持ったまま右隣の話に耳を傾けるふりをして、タイミングを計ってぐるっと体を回した。
 そこには、菓子を運んできた侍従が、コンポートを置こうとして腕を伸ばしたところだった。 肘と肘が強くぶつかり、盃が指からすっぽ抜けて床に転がった。
「あっ、申し訳ございません!」
 とっさの計画がうまく行ったため、マリアンネは心からの笑顔になって、困りはてた青年を慰めた。
「気にしないで。 別のゴブレットでワインを持ってきてくれると嬉しいわ」
「はい、奥方様」
 叱られなかったことにホッとして、若い侍従は深く頭を下げてから、小走りに盃を取りに行った。








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