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表紙

緑の騎士 -24-
 太陽が地平線に落ちるには、まだ数時間の余裕があった。 式が無事に終わると、ヤーコブはそわそわし始め、残念ながら披露宴には出席できないと言い出した。
「留守居にはベーレントやシギスムントのような腕のある者を残してはいますが、こちらに主だった部下を半分以上連れてきているので、やはり心配で」
「我ら両国が手を結び合ったことで、脅威を感じている隣人もいるでしょうからな」
 エドムントは鷹揚〔おうよう〕に頷き、忙しく隊をまとめて引き返すヤーコブを大門まで見送った。
 馬が引いて来られるのを待つ間に、ヤーコブはマリアンネを脇へ呼んで、念を押した。
「おまえはマリア姫だ。 決して忘れるな」
「はい」
 マリアンネはおとなしく答えた。 ヤーコブは更に重ねて忠告した。
「今後はロタール、ディルク、ヨアヒム等とあまり親しくしないように。 ギュンツブルク伯爵は、どうやら一目でおまえが気に入ったらしい。 新婚の夫を嫉妬でやきもきさせぬようにな」
「はい」
 そんなバカなことあるものか、と思ったが、一応素直に返事はしておいた。


 大門が再び開け放たれ、ヤーコブ達の後ろ姿が次第に夕陽の中に小さくなっていくのを見送っていると、さすがに心細くなった。 マリアンネの護衛を許可された兵士は三十人。 それに例の三人組と、侍女四人だけだ。 持参金をたっぷり持ってきたから肩身は広いが、早くこの城に溶け込む努力は必要だった。
 ブライデンバッハの最後の槍持ちが門を抜け、四人がかりで大門の扉が固く閉じられた。
 ギュンツブルク伯爵夫人として、マリアンネの人生が新しく始まったのだ。


 続いて一階の大広間で催された祝賀の宴は、予想した以上に華やかなものだった。
 長いテーブルには林檎やすぐりだけでなく、南国から取り寄せたザクロ、葡萄、オレンジが積み上げられていた。 銀の皿には火酒を用いて調理した山鳥のスープがなみなみとそそがれ、食卓の脇には極上のフランケン・ワインが樽ごと運び込まれた。
 灰色と赤の制服をまとった楽団が、陽気な曲を次々と演奏する中、家令に指示された召使達が入れ替わり立ち代わり料理を配って歩いた。
 ローストポークが取り分けられている間中、エドムントはマリアンネに椅子を近寄せてぴたりと横に座り、じっと顔を見つめたり、手を取って指にキスしたりしていた。
 マリアンネもがんばって笑顔を浮かべ、愛想よく振舞った。 会ったばかりで話題がないので、そのうち微笑みすぎて顔の筋肉が引きつってきたが。








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