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表紙

緑の騎士 -22-
 髭の騎士は、ヘルムート・クンツと自己紹介した。
「東のライネホーファーに居を構えています。 お見知りおきを」
「初めまして」
 マリアンネは愛想よく挨拶した。 その答え方が気に入ったらしく、クンツは顔をほころばせた。
「きれいなお声だ。 小川のせせらぎのように爽やかで」
「リュートと歌もお上手ですよ」
 脇からロタールが口を挟んだ。 容姿の美しさだけでなく、こういう気配りができるところが、ロタールのもてる理由だ。 マリアンネは感謝の微笑を彼に投げた。


 食事はなごやかに進んだ。 いつの間にか話の中心になっているのに気付いて、マリアンネは自分に驚いた。
――いやだ、マリア姫の代役になろうとして、少し張り切りすぎたかしら――
 ちらっと下座をうかがうと、ディルクは淡々とソーセージを口に運んでいた。 彼に目をつけたらしい侍女のヨランデが盛んに話しかけているが、たまに短く答えるだけで、ほとんど見向きもしない。 彼らしい、と妙なところで微笑ましくなって視線を移すと、その斜め向かいにはヨアヒムがいて、苦虫を噛み潰したような顔で山羊のあぶり肉をビールで流し込んでいた。
 うっかり、マリアンネはヨアヒムと目を合わせてしまった。 彼はますます不機嫌な表情になって、小さく顎を動かしてみせた。 どうやら何かを知らせようとしているらしい。 マリアンネは小さく首をかしげた。
――え? なに?――
 ヨアヒムの眉が八の字になった。 青い眼がチラチラと横を指す。 マリアンネがそっちの方角を見ると、ニつ離れた席から大隊長のボーデが身を乗り出して注意を引いていた。
 急いでマリアンネは彼に耳を傾けた。 ボーデは小声で、こう訊いてきた。
「そろそろ出発してもかまいませんか? 姫様のご意向が大事ですから。 もうお疲れは取れましたか?」
 微妙な心境になって、マリアンネは首を縦に振った。 そうだ、私は物事を決め、命じる立場になってるんだ、とようやく実感した。
「そうしてください。 食事はあと数分で」
「それがよろしいです。 連中は食べさせておくといつまでもテーブルから離れませんからな」
 にこっと笑いかけると、ボーデはがっしりした手に銅の盃を握り、人々に呼びかけた。
「ではこの辺りで昼の宴はお開きにいたしましょう。 最後に、我らが新しい奥方のお幸せを願って、乾杯を!」
「乾杯!」
 一斉に声が湧き起こった。 長いテーブルを見渡せば、迎えに来た人々は皆明るい顔をしていた。 マリアンネは胸が温かくなるのを覚え、心からの笑顔で応えた。 少なくともこの場所では、ギュンツブルクの人々は間違いなく、マリアンネを歓迎してくれていた。







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