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表紙

緑の騎士 -21-
 婚礼の日は、まあまあの日和だった。 空に散らばる雲はわずかで、たまに黄土色へと姿を変えて、夏の太陽を素早く横切るくらいのものだった。
 午前八時、嫁入りの一行は、ヤーコブの号令で、粛々と城門を歩み出た。 供と護衛の兵士合わせて二百五十人、それに侍女三十人と職人や料理人など十五人を伴う、立派な花嫁行列だった。
 実を言うと、隣りのギュンツブルク国の都ロートグラナートまでは、普通に馬車を走らせれば三時間余りで着く。 でも、徒歩の兵がいるし、せっかくお揃いの青とクリーム色の制服まで着せたのだから、半日かけてゆっくり練り歩くことになっていた。


 二時間半で国境に到着した。 関所の柵近くには、ギュンツブルクからの使者が四十人ほど並んでいて、美々しく飾った馬と馬車が見えてくると、帽子を取って丁重に挨拶した。
 ヨアヒムとディルクに付き添われ、ヤーコブは上機嫌で馬を歩ませて、使者の長とみられる大隊長のボーデに声をかけた。
「わざわざの出迎えご苦労」
 栗毛の立派な馬から下りたボーデは、明るい丸顔をヤーコブに向け、穏やかな声で口上を述べた。
「この度は麗しい姫君をお連れくださり、まことに光栄至極に存じます。 さて、だいぶ日が高くなってきました。 ここで皆様休憩を取られてはいかがでしょうか? あちらの天幕にささやかながらワインと肉など用意してございます」
 その嬉しい申し出を聞いて、そろそろ足にマメの出来かかっていた兵隊達に嬉しそうなざわめきが走った。
 馬車のマリアンネも、休憩と聞いてホッとした。 大型で上等の馬車といえども、道が道だから信じられないほど揺れる。 足が突っ張り、腰はがたがたになりかけていた。
「かたじけない」
 部下に乗馬鞭をポンと放って、ヤーコブは身軽に馬を降りた。 そして、大声で兵士達に呼ばわった。
「くれぐれも飲みすぎるなよ。 城までついてこられなかった者は、容赦なく森に捨てていくからな」
 明るいどよめきが返ってきて、兵士たちは我先に食事に群がった。


 マリアンネも、どっしりした赤紫色のベルベットのドレスを持てあましながら、テントにしつらえたテーブルに着いた。
 右に席を取ったのは、茶色のビロードに身を包んだロタールだった。 左隣りが大きな髭を生やした見知らぬ騎士だったので、一番話しやすいロタールが傍に来てくれて、マリアンネはホッとした。







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