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「え? なぜ!」
マリアンネはびっくりした。 ロタールはちょっともじもじして、あらぬ方に目をやった。
「実はわたしも結婚させられそうなんだ。 父がヒルデ・フェルトナーとの縁談をまとめようとしている。 だが、君も知ってる通り、ヒルデだけは苦手で」
無理もない。 ヒルデは唇が薄く血の気のない娘で、情熱のかけらもなかった。 たぶん家庭の躾〔しつけ〕が厳しすぎたのだろう。 規則一点張りで、尼さんより堅苦しかった。
「それで、初めて父と喧嘩になってしまった。 ほとぼりが冷めるまで他所へ行っていたいんだ」
マリアンネは素早く考えた。
「じゃ、シギーと代わったらどうかしら。 あの人はこの城に恋人がいるから」
「そうだね。 ヤーコブ様に取りなしてくれるかい?」
ロタールは、ほっとした顔になった。
取引は成立し、二人は一時間ほど部屋に篭もって昔話を楽しんだ後、揃ってヤーコブに会いに行った。
中央閣の四階にある自室で、ヤーコブは改めてロタールの美しい顔と豊かな茶色の巻き毛を眺め、得心が行った表情でうなずいた。
「よい相手を選んだな。 この男なら口は貝のように堅いし、いい護衛になるだろう。 ただし」
言葉を切って、ヤーコブはニヤリとした。
「免疫のないギュンツブルクの娘たちに用心するようにな、ロタール。 争奪戦に巻き込まれても知らんぞ」
その午後からは、目が回るほど忙しくなった。
婚礼は四日先に迫っている。 その間にマリアンネは、マリア用に新しく仕立てたドレスの補正をしてウェストを縮め、マリアの以前の嫁ぎ先だったコーエン侯国の情報を覚え、二万グルデン(≒二十四億円)という高額の持参金を渡された。
「しっかり両国の掛け橋となるんだぞ」
支度の進み具合を見に来たヤーコブに諭されて、婚礼衣装を点検していたマリアンネは思いつめた表情になった。
「前の奥方のクレメンティア様は暗殺されたという噂が立っていますが」
ヤーコブは眉間に皺を寄せた。
「ただの風評だ。 それにエドムントは、せっかく同盟の成った我が国と事を構えるような愚かな真似はしないはずだ。 もし万が一が心配なら」
小指から銀の指輪を抜くと、ヤーコブは妹の掌に載せた。
「これを飲み物に入れて、黒く変色したら砒素が入っている。 安心のために使いなさい」
「ありがとう」
マリアンネは、喜んで指輪を右手の薬指にはめた。 気休め程度のものだが、これだけでもずいぶん心が安定してきたのが不思議だった。
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