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表紙

緑の騎士 -19-
 ロタールは目を丸くした。
「は?」
 じれったそうに、マリアンネは繰り返した。
「大事な相談。 よく見て、ロタール。 私が誰かわかる?」
 鳶色をした利発そうなマリアンネの瞳に見入っているうち、ロタールは徐々に悟り始めた。
「マリア姫じゃなく、マリアンネ……?」
「そう!」
 さすがロタール。 悟りが早い。 マリアンネはほっとして、黒っぽい革手袋をはめたロタールの手に指を置いた。
「この城で口が堅いといったら、あなたの右に出る者はないわ。 だからお願いします。 今ここで、私とひとときを過ごしたことにして」


 彫刻のように整ったロタールの顔が、隠し切れない驚きに引きつった。
「今度は何たくらんでるんだ?」
 マリアンネは急いで首を降り立てた。
「ちがう! 妙な計画にあなたを引きずりこんだりしないわ。 昔はよくやったけど……。 だって、あなたって頭がいいんだもの。 いろんないたずらを考えつく天才だったわね」
 ロタールは苦い表情になって下を向いた。
「そう言ってくれるのは君ぐらいのものだ。 周りはわたしを見て、こう決めつける。 あんな顔をしている男は頭がからっぽに違いないと」
「天は二物を与えることがあるんだけど、人は認めたくないのよ」
 慰めるために、マリアンネはロタールの手を軽く叩いた。
「あなたが奥方たちの名誉を守ってるのは知ってるわ。 勝手に浮気して、あなたのせいにしてる。 あなたと付き合ったことにすれば自慢できるものね。
 だから、それを私にもしてほしいの。 必要なのよ」
「なぜ?」
 ロタールの率直な問いに、マリアンネも誠意で答えた。 そして、ヤーコブの大胆な計画を、そっくり話した。
「こういうわけなの。 ヤーコブ様の前へ一緒に行って、うなずいてくれれば、それで終わるのよ」
 黙って聞いていたロタールが、ようやく口を開いた。 どこか面白がっている口調だった。
「だとすると、君には既に経験があって、その相手をヤーコブ様に隠しておきたいということだな」
 どきっとしたが、マリアンネはやむなく認めた。 ロタールは鋭いのだ。
「ええ。 だって、これから嫁入りするんですもの。 好きな人がいるなんてわかったら大変だわ。
 ね、お願い。 マリア姫としてお小遣いをたっぷり貰ったの。 それで、あなたに欲しい物があれば、たいてい手に入れられると思うの。 だから」
「欲しい物か」
 ロタールは顎に指を当て、少し考えた。
 それから、思いがけないことを口にした。
「ならば、君の護衛にわたしも加えてくれ」







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