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マリアンネは、最初に閉じ込められた小部屋に戻され、朝食もそこで取った。
戸口近くにはアガーテがどっしりと陣取って、エプロンらしい四角い布を縫っていた。 まだ逃げると警戒されているらしい。
城の雑用はたいていこなせるマリアンネなので、縫い物、糸繰り、刺繍、どれも得意だ。 しかし、今は手仕事をする気分ではなかった。
内心ちりちりしながら、窓辺に立って庭を見下ろしていると、馬止めの近くで藍色のマントがひるがえるのが目の端をかすめた。
ロタール・クニーゼルだ!
たちまちマリアンネの眼が輝いた。 そして、身をひるがえしてアガーテの椅子の横に屈みこむと、心から訴えた。
「ねえ、お願い」
「またですか?」
「そう、またなの。 でも今度は、ヤーコブ様も喜ぶことよ。 下の庭にクニーゼル殿が帰ってきたから、ぜひここに来てほしいの」
意味深長な目つきで、アガーテはマリアンネに横目をくれた。
「あのクニーゼル様ですか?」
「そう」
嬉しくて、マリアンネは息を弾ませた。 アガーテは縫いかけのエプロンを横に置き、頬をふくらませた。
「あの、ブロッホの種馬と呼ばれる……」
「品のないこと言わないで。 彼はそんな人じゃないわ。 ただ、跡継ぎのいない貴族の奥方の何人かに引っ張りだこになったというだけで」
「それで一財産作ったという噂ですよ」
「ともかく、呼んできてちょうだい。 恩に着るから」
五分後、縁に蔓草〔つるくさ〕模様の刺繍を入れた上等なマント姿が、アガーテに連れられて部屋に入ってきた。
整った髭の下に覗く大きめの口が、淑やかに立ったマリアンネを見てほころんだ。
胸に手を当てて一礼すると、ロタールは嬉しげに挨拶した。
「これはマリア姫、いつの間にお帰りですか? ご壮健そうで何よりです」
「クニーゼル殿もお元気そうで」
無難に答えた後、マリアンネはアガーテに顔を向けた。
「もう下がっていいわよ」
「え?」
一瞬あせったものの、アガーテはすぐ気を取り直し、スカートを広げて膝を折ると、縫い物を持って出ていった。
とたんにマリアンネはポーズを崩し、せわしなくロタールに歩み寄って椅子を勧めた。
「坐ってよ、ロタール。 折り入って相談があるの」
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