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小鳥がすっかり目覚め、朝の虫探しに飛び回っている八時過ぎ、マリアンネは短い階段を這い上がって棺の蓋を押し上げ、納骨室に顔を出した。
中はシーンとしていた。 相変わらず、埃と枯れた花の匂いがただよっている。 マリアンネは石の床に降り立ち、しっかりと蓋を閉めてから礼拝室に向かった。
祭壇に近付こうとしたとき、妙なことに気付いた。 戸口が開いている。 細く隙間が空いて、外の光が淡く差し込んでいた。
誰かが様子を見に来たんだ。 マリアンネにはすぐわかった。 でも、いるはずのマリアンネは消えていた。 だからその誰かは、大慌てで探しに行ったのだろう。 扉をきちんと閉めるのを忘れて。
礼拝室の中には、木のベンチがいくつか置いてある。 その間を縫うように歩いて、マリアンネは扉まで行き、片目で外を覗いた。
その視野を、いきなり紺色の胴着が遮った。 低い声が早口で叱った。
「どこに隠れてたんです!」
アガーテの声だった。
マリアンネが小さくなって答えないでいるうちに、アガーテは畳みかけた。
「お日様が出てすぐ、見に来たんですよ。 そしたら、どこにもいないじゃないですか。
まあ、昔からおテンバな貴方のことですからね、何かたくらんでるとは思いましたよ。 目につかないところに隠れて、逃げ出そうとしてるんだろうってね。 だからこうやって隙間を空けて、引っかかるのを待ってたんですよ」
人をネズミみたいに言って。 マリアンネは閉口したが、今は目的があるから、おとなしくうなだれてみせた。
「ちょっと試してみただけよ。 一晩よく考えてみたわ。 それで決めたの。 ヤーコブ様のいうとおりにします」
アカーテは、二度小さく頷き、それから一度、大きく首を振った。
「運命ですよ、マリアンネさん。 ヤーコブ様だって、貴方を犠牲にするわけじゃありません。 ちゃんとマリア様と同じに、忠実な騎士を三人もつけてお嫁に出されます。 彼らが護ってくれますよ。 大丈夫」
また黒いマットをすっぽり被って、マリアンネは城の中央閣に戻った。 アガーテに頼んで、マリアの古いドレスを持ってきてもらったマリアンネは、地味なのを選んで急いで着替えた。
ボタンが取れ、埃まみれになった元の服を、アガーテはぶつぶつ言いながら持ち去った。
「ほんとに、どうやったらこんなに汚せるんだろう。 マリアンネさん、まだそう呼ばせてもらいますけど、貴方は活発すぎます。 男の子に生まれるべきでしたよ、ほんとに」
男子だったら、こんな嫁入りの苦労はなかったのに。 マリアンネはアガーテの後ろ姿を見送りながら、深い溜め息をついた。
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