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ディルクが部下を十人ほど連れて出発してから間もなく、新たな使いが城を訪れた。
それは、従者を伴ったビンツスという名の騎士で、コーエンから来た者だからぜひ会ってほしいとマリアンネに申し出てきた。
マリアンネはぎょっとなった。 コーエン国は、マリア姫の嫁ぎ先だ。 今『マリア姫』と名乗っているマリアンネを、偽者と見破ってしまうかもしれない。
いっそ居留守を使おうか、と一瞬考えたが、それではかえって怪しまれてしまうと思い直し、マリアンネは別の作戦に出た。 いろいろあって弱り、頭痛がするため、奥まった部屋で静養していることにしたのだ。
薄暗い部屋に通されたビンツスは、羽根のついた帽子を取り、深く頭を下げた。
「奥方様、お久しぶりです」
「もう奥方ではありませんわ」
マリア姫のしゃべり方を真似て、マリアンネは額を指で揉みながら柔らかく答えた。
ビンツスはいっそう丁重な声音になって、話を進めた。
「ご夫君であられた国王が亡くなられてから、コーエンは麻のように乱れております。 それで宰相のフラーケ様が、マリア様にぜひ戻ってきていただきたいと仰せです。 次の世継ぎ候補クレメンス様の奥方として」
マリアンネは、あっけに取られた。
僅かな間、これはロタールの新しい作戦だろうかと疑った。
だが、すぐ思い出した。 フラーケと王太后のヨゼフィーネは、たしか犬猿の仲だったはずだ。 宰相は、ヨゼフィーネとロタールに対抗して、おとなしいマリア姫を操り、自分の思うままになる政権を作りたいのだろう。
この上、コーエンの内輪もめに巻き込まれるのは沢山だ。 マリアンネは頬に手を当て、疲れた風を装いながら、小声で答えた。
「言いにくいことだけれど、私の再婚相手はもう決まりました。 コーエンも大変でしょうが、兄のヤーコブを失ったこの城も緊急事態なのです。 城を引き継ぐ縁者は私だけ。 きちんと身を処して、国を落ち着かせないと」
「立派なご意見です。 話し方も理路整然としていらっしゃる」
ビンツスの口調が、不意に高圧的になった。
「コーエンのマリア様はいつもおっとりして、すぐ涙ぐむお方でしたがな」
マリアンネは反射的に、手を強く握り合わせた。
しまった、と思った。 この使者は、一筋縄ではいかない。
悪い予感どおり、ビンツスは強気に攻めてきた。
「それに、無理やりコーエンから連れ戻されるとき、こちらでの再婚は死んでも嫌だと叫んでおられました。
短い間に、ずいぶんお変わりになられましたね、マリア姫?」
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