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騎士たちを集めた昼食の席で、マリアンネは改めてディルクを城の総司令官に任命した。
マリアンネに先立って城に戻り、短期間に秩序を回復したディルクの手腕は、特に若手の間で高く評価されていて、下座から歓声と拍手が起こった。 年長の陪臣たちも、表立った苦情を述べる者はおらず、まずは穏やかに任命を受け入れた。
これで、マリア姫としての顔見世が終わった。 マリアンネは心からほっとして、食事が済んだ後、緊張に火照った顔を冷やすために、一人で中央閣の塔に上った。
その張り出し付きの塔は、作らせた領主の名を取ってヨランドの塔と名付けられていた。 この城ではもっとも高く、てっぺんに上ると周囲全体を見渡すことができる。
マリアンネは広い窓から、正門付近の光景を眺めた。 もう甲冑に身を包んだ猛々しい軍勢は見られず、代わりに、荷物をこぼれるように積んだ荷馬車やロバ、包みを抱えた男女が行き来している。 以前と変わらぬ活気に満ちた市場が、戻ってきていた。
これでリーツ城はまた繁栄する。 巡礼たちも今まで通り、気前よく土産を買いあさりながら通過していくだろう。
そして私も、この城で未来を作る。 ディルクと家庭を持ち、跡継ぎを育て……。
また頬が熱くなってきた。 冷たい両手を当てて、眼を閉じかけたとき、背後で衣擦れの音がした。
マリアンネは、ぴたっと動きを止めた。
暗殺者だ、という声が、頭の中に木霊〔こだま〕した。 城内には、彼女がマリア姫でないのを知っている人間が、まだ残っているかもしれない。 オトマイアーが秘密を触れ回った可能性もある。
今マリアンネが立っている部屋は、展望室として作られていて、それほど広くなかった。 殺しに武器を使うなら、おそらく弓ではなく剣だろう。 または素手で絞めるのかもしれない。 マリアンネは肘から下だけを動かして、後ろから見えないように脇の短剣を手で探った。
背後から、低く声が聞こえた。
「心配しなくていい。 わたしだ。 シギーだよ」
とたんに、緊張で止まっていた冷や汗がどっと流れ出て、マリアンネの額を伝った。
でも、まだマリアンネは完全に安心したわけではなかった。 シギスムント・フィッシャーは味方ではない。 幼なじみだが、ヤーコブのお気に入りで、友人たちをこっそり探っていると聞かされた。
短剣から指を離さずに振り返ると、確かにそこにはシギスムントが立っていた。 紺色のシャツになめし革の袖なし上着を着て、立派な長剣をベルトで腰につけていた。
まっすぐマリアンネを見つめたまま、シギスムントは静かに続けた。
「オトマイアー達は、城を荒らして出ていったらしいな。 わたしは密命を受けていたので、やっと今朝になって戻ってきた。 そうしたら、すべてが変わってしまっていた」
マリアンネは、目をこらして昔の友を眺めた。
生気のない肌。 青黒く落ち窪んだ眼窩〔がんか〕。 彼は、ひどく面変わりしていた。
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