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表紙

緑の騎士 -121-
 リーツ城の正門前には、ディルクが出迎えていた。 両脇には、忠誠を誓った騎士たちがずらりと並んでいる。 真面目なためにヤーコブに冷遇されていた者たちも、見違えるような明るい表情で列に加わっていた。
 ディルクが一礼してマリアンネを馬から抱き下ろすと、期せずして大きな歓声が上がった。
「ようこそお戻りを。 我らが姫に祝福あれ!」
「我らが姫に祝福を!」
 城主が理不尽な戦いを引き起こしたにもかかわらず、賠償金も占領もなしに協定を結び、無事帰ってきたマリア姫(つまりマリアンネだが)を、リーツ城の武者たちは新たな尊敬の目で見上げていた。
 一瞬とまどったものの、マリアンネは姫として笑顔で手を上げ、一同の歓迎に応えた。


 彼らが満足して散っていった後、マリアンネはそっとディルクと手を握り合い、眼を見交わした。
「たいした手腕ね。 こんな短い間に、すっかりお城の秩序を元通りにしたのね」
「大抵の騎士は、ヤーコブの野心に仕方なく付き合わされていただけだからな。 ここは豊かな国だ。 もう戦わなくてすんで、皆ほっとしているよ」
「でも、城は豊かかどうかわからなくなっているんでしょう? 金庫が見つからないと、イェルンがぼやいていたわ」
「そうなんだ」
 ディルクは困った風情で、眉をこすった。
「こういうとき、謎解き名人のロタールがいると助かるんだが。 俺はヤーコブのような複雑な性格じゃないんでね」
「少しずつ調べたら、見つかるかも。 普段ヤーコブがよく使う場所で、他の人が無断で入り込めないところを」
「そうだな。 君が部屋に落ち着いたら、すぐ探し始めよう」


 独身のときマリア姫が使っていた東の部屋に、マリアンネは案内された。
 一歩中へ入ったとたん、ダグマーが声を上げ、イーナは目を丸くして口を覆った。
 マリアンネも、驚きで立ちすくんでしまった。 その部屋は、夢のように美しかった。
 垂れ幕は薄茶色のダマスク織で金紗がかかり、長椅子には中東風のクッションが幾つも置かれて、いかにも坐りごこちがよさそうにしつらえられていた。 どっしりした天蓋付きの寝台にも金紗が使われ、優雅に波打っていた。
 戸口に立ったディルクが、低い声で説明した。
「城中のきれいな物を、みな持ち込んだんだ。 新しい城主にふさわしいように」
「ああ、ディルク」
 感激に眼をうるませて、マリアンネは幾度も部屋を見回した。
「なんて優しいの。 女王さまでも持っていないような、素晴らしい部屋にしてくれて」
 感きわまって抱きつきたかったが、二人の侍女がいるので我慢した。 その代わりに、重いマントを脱いでイーナに渡してから、すぐマリアンネはディルクに近付いた。
「では、さっそくヤーコブ様の残した課題に取りかかりましょう。 早く見つければ、それだけ楽になるわ」


 侍女たちに荷物を解くのを任せ、二人は廊下に出た。
 最初の角を曲がったとたん、どちらも辛抱しきれず、夢中で抱き合った。







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