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マリアンネは、侍女たちとすぐ荷物をまとめにかかった。
本来なら、婚資として持ってきた持参金は返さなければならないが、ヤーコブの一方的攻撃と退却の賠償として、マリアンネはすべてエドムントに渡した。 それは教皇へのワイロを引いてもまだ余りある大金だった。
ローマ教皇アレキサンデルは、エドムントとアデライーデ・グロートの従兄妹結婚も認めた。 だから、マリアンネが別れの挨拶に行ったとき、グロート夫人、いや、将来のギュンツブルク伯爵夫人は、幸せに光り輝いていた。
もう隠れ歩かなくていいため、アデライーデは朝日の差し込む広間にエドムントと椅子を並べて坐り、互いの顔を覗きこむようにして話をしていた。 部屋に入ったとき、彼女がいつもの地味な喪服ではなく、濃赤のベルベットのドレスに金の髪飾りをつけていたので、マリアンネは一瞬、知らない貴婦人かと思った。
ダグマーとイーナを従えたマリアンネを見て、エドムントとアデライーデは立ち上がって迎えた。
「もうお帰りか。 確かに、先ほど使いがブライデンバッハから来たようだったが」
「はい。 デーデブリュック殿の部下が迎えに来ました」
エドムントはぎこちない笑顔を浮かべ、マリアンネの手を取って軽く唇をつけた。
「兄上の野心が強すぎたために、こういう事態になってしまったが、我々の友情は揺るぎないと信じている。 アデライーデとの婚儀に来てほしいのだが、前の奥方を式に招くのは具合が悪いものかな」
「いいえ、ぜひ出席して祝福させていただきたいと思います」
マリアンネはきっぱりと答えた。
「おそらく私も、間近に夫を迎えることになると思います。 互いに列席して祝えば、もうわだかまりがなくなったと周りの国にわかってもらえるのではないでしょうか」
「その通りだ」
エドムントの笑顔が本物になった。
「何の遺恨もなく、隣国同士これまで以上につつがなく交流できる。 互いの発展のため、協力しあおう」
「喜んで。 では、しばらくのお別れです。 お二人のご健康と幸福を心よりお祈りします」
「我々も同じ言葉を返そう」
それまで無言でにこにこしていたアデライーデが、つと歩み寄ってマリアンネを抱き、頬にキスした。 そして、耳元で囁いた。
「ありがとう。 貴方は私の生涯の望みを叶えてくださったわ。 このことは、決して忘れません」
マリアンネを迎えに来たのは、ディルクが日頃目をかけている二十歳の青年イェルン・ケーラー率いる十五人の部隊だった。
明るい陽射しの元、マリアンネの横を護って馬を歩かせながら、イェルンはディルクが城に入った直後の様子を報告した。
「オトマイアーは前日の午後、一部の騎士たちと共に城を出ていったそうです。 ヤーコブ様の居室は、嵐の吹き荒れた後のように引っかき回されていました。 金目のものを探しまくったんでしょうね」
あきれて、マリアンネは顔をしかめた。
「騎士の風上にも置けない振る舞いね」
「ヤーコブ様という後ろ盾がいなくなった以上、城に留まっても出世はできないと見きわめたんでしょう」
「では、城の財産はすべて持ち去られたの?」
金袋をごっそり持っていかれたなら、城の経営が苦しくなる。 マリアンネは不安になった。
イェルンはすぐ首を振って、その心配を打ち消した。
「いえいえ、ヤーコブ様は用心深い方でした。 時間が足りなかったせいもあり、去った連中に金箱は見つけられませんでした」
そこでイェルンの笑顔は苦笑に変わった。
「実は、誰も発見できないんです。 妹君のマリア様ならご存じですか?」
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