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ロタールは、なだめるようにマリアンネの手を軽く叩いた。
「そんな困った顔をしないで。 考えてごらん。 君の命は、この城を出ればまだ危険なんだよ。
たとえば、補佐役のオトマイアーだ。 君の考え通り、彼が城代になったとしよう。 彼は二年前に細君を失ったやもめだ。 戻ってきた君を妻に迎えれば、すぐ正式な城主になれる。
その後、君は病気か事故に見せかけて殺され、ブライデンバッハは彼ひとりの物となる」
マリアンネの顔が、みるみる青ざめた。
「ええ……その通りだわ」
「だがオトマイアーはヤーコブの腰巾着〔こしぎんちゃく=忠実な子分〕だったから、騎士や兵士たちにはあまり好かれていない。
それに比べて、ディルクは腕っ節が強くて尊敬されているし、面倒見がいいから信頼も厚い。 勇気を出して、マリアンネ。 彼と行けば、きっとうまく行くよ」
まだ胸は押し付けられるように重かったが、マリアンネは無理をして顔をほころばせ、ロタールの手を軽く握り返した。
「それで、あなたはどうするの? 本当なら、城代はあなたが一番ふさわしいのに。 名家の出で、有力者の親戚がたくさんいて、おまけにジークフリートのように強くて賢く、美しい人なのに」
ロタールは、まともに受けずに苦笑いした。
「君がお世辞を言うとはね。 まあ、好意としてありがたく受け取っておくよ。
僕には他にやることがあるんだ。 マリア姫が跡継ぎを産めずに去ったコーエン国が、お家騒動寸前になっている。 僕の伯母が前の王妃でね、手助けしてくれと密書をよこしたんだ。 だから、明日の午後には出発するつもりだ」
「引っ張りだこなのね」
ディルクたちほど親しくはなかったが、子供時代からよく知っていて尊敬していたロタールを、マリアンネは寂しげに見つめた。
「本当にお世話になったわ。 どれだけあなたに頼っていたか、感謝しているか、わかってもらえるかしら。
コーエンはグートシュタインのもっと南だから、ここから遠いわ。 簡単には会えなくなってしまうのね」
「馬を飛ばせば二日で着くさ」
こともなげに、ロタールは言った。
「また必ず逢おう、僕たちのかわいい王妃さま。 君にはその座が誰よりもふさわしいよ、マリアンネ」
翌日の午後過ぎ、ロタールはマリアンネに見送られて、従者のアロイスと共にマルトリッツ城を出立した。
二人と入れ違いに、オリーヴ色のマントをはためかせて使者が戻ってきた。 ギュンツブルク伯爵エドムント・ギーレンと、マリア・アスペルマイヤー姫の婚姻無効を正式に承認するという、教皇からの返書をたずさえて。
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