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ディルクと小隊の出発を見送った後、マリアンネはロタールを追った。
ロタールは、騎士の宿舎に戻ろうとしていた。 その途中で呼び止めて、マリアンネは彼を近くの馬屋に連れていった。
「やっと二人きりになれたわ」
マリアンネの不安そうな声を聞いて、ロタールはニヤッと笑った。
「知らない奴が聞いたら、恋人同士の密会と思いそうだな」
「ああロタール、まだ冗談を言う元気があるのね。 私は心配で、足ががくがくしているのよ」
そう言いながら、忙しがっているロタールに逃げられないように、マリアンネは彼の上着の端をしっかり握った。
ロタールは、その手を見下ろした。
「心配しないで。 ちゃんと話すから。 一眠りしたら、誰よりも先に説明するつもりだったんだ
まず、エドムント様の了解を取ったことから言うよ。
君は、ディルクがリーツ城を掌握したら、ブライデンバッハへ帰る。 そして、反乱を防ぐためだと言って、そのまま居続けるんだ。
君の留守中に、エドムント様が結婚取り消しの訴えを出す。 君達が床入りしていないのは皆知っているから、すぐに婚姻の不成立が認められるはずだ」
「それで?」
マリアンネは無意識に息を詰めていた。 ロタールは、真面目な顔でうなずいた。
「君はブライデンバッハの正式な支配者となる。 マリア姫としてね。
そして、君が再婚した暁には、夫がその支配権を受け継ぐんだ」
マリアンネはよろめいた。
定まらない足が敷き藁に取られ、危うく後ろ向きに倒れそうになって、横壁に手をついた。
急いでロタールが腕を出して支えてくれた。 マリアンネの目は、驚きで飛び出しかけていた。
「私……この私が、城主になるの……?!」
「もちろんさ」
マリアンネが驚いたことに、ロタールはむしろびっくりしていた。
「賢い君が、予想しなかったはずないだろう?」
「いえ、そんな……」
マリアンネは、しどろもどろになった。
「誰かが、たとえば副官のオトマイアーが代行して、その間にエドムント様たち近隣の城主が集まり、後継者を選ぶのだと思っていたわ」
「いったん城の実権をオトマイアーに渡したら、手放すと思うかい?」
ロタールはちょっとあきれた様子で、首を横に振った。
「正式に代行の地位についたら、実効支配を認められたも同然だ。 跡継ぎの君は女性だし、夫に離婚された後は自分で奪い返すだけの力はないと見なされる」
「奪い返すって……」
「重荷なのはわかる」
不意にロタールは口調を変えて、優しくなった。
「だが、未来を考えてくれ。 本物のマリア姫みたいに逃げ出されては、周りが困る。 もっとも、彼女とヨアヒムでは領地の管理は無理だろうが。
しかし、君ならできる。 君とディルクなら」
「私はそんなつもりで……」
「野心がないから、いいんじゃないか」
ロタールは確信を持って言った。
「君達には実力がある。 責任感もたっぷりある。 そもそも君をこんな陰謀に巻き込んだのはヤーコブだ。 マリア姫では頼りないから、君の力を見込んで利用しようとしたんだ」
ヤーコブにとっては、なんという皮肉な結末だろう。 マリアンネは言葉を失って、さえざえと美しいロタールの顔を見つめるばかりだった。
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