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表紙

緑の騎士 -117-
 ベルントは二つ階段を上り、この立派な城の中では比較的小さな部屋にマリアンネを案内した。 ダグマーは、控え室で待っているように言われた。


 マリアンネが一人で中へ入ると、テーブルの周りに立ち、頭を寄せて何かを覗きこんでいた男達が、一斉に振り向いた。
 そこには、城主エドムントやベックマン隊長、重臣のマイネッケと共に、ロタールとディルクの姿もあった。
 マリアンネを見て、エドムント以外の男達は丁重に頭を下げた。 エドムントは両手を前に差し出すようにしてマリアンネに近付き、ほっそりした肩を軽く握った。
「無事でなによりだった」
「ご心配をおかけしました」
 片手を肩に置いたまま、エドムントは騎士たちに目をやって、大きめの声で尋ねた。
「この人がブライデンバッハの正統な跡継ぎだということに、異論を挟む者はないだろうな?」
「ありません」
 ロタールが素早く答えた。
「選帝侯や神聖ローマ皇帝も、栄えあるブライデンバッハが衰えるのは望まないはずだ」
「はい」
 騎士たちは口々に答えた。
「今、リーツ城は主を失って混乱しているだろう。 妙な横槍が入る前に、城内をよく知る者が落ち着かせるべきだな」
 活き活きしたエドムントの目が、目立たぬようにたたずんでいるディルクに焦点を定めた。
「ロタール殿は、貴公を推薦した。 勇敢で思慮深く、人望もあると聞く。 マリア妃の代理として、ただちにリーツ城に向かい、兵士たちをまとめてくれないか?
 姫はもう安全だから、護衛兵をみな連れていくがいい。 数が足りないようなら、こちらの手勢を用意しよう」


 ロタールとエドムントの間で、秘密協定が交わされたのは間違いなかった。 マリアンネがロタールをさりげなく見ると、彼はかすかに頷いてみせた。
 ロタールは遠くまで見通せる。 若いが一流の参謀だ。 任せて間違いないだろう。
 マリアンネは弱気を振り切り、戸惑った表情のディルクに歩み寄ると、心をこめて言った。
「あなたの手腕を信じています。 中には従わない者もいるでしょうが、自らの判断で遠慮なく裁断してください」
 二人の眼差しが、一瞬熱く交差した。
それからディルクは足を引き、丁寧に一礼した。
「御意のままに」









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