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小屋……?!
この辺りにある建物といえば、マリアンネが今いる炭焼き小屋しかなかった。
誰かが馬ごと入ってくる!
軽くパニック状態になって、マリアンネは体を小さく丸めた。 隠れられる場所は、一つしかない。 それも、できるだけ音を立てずに、そっとやらないと……
やがて、きしみながら扉が開いた。 暗闇の室内に、人と馬がゆっくりと入ってきた。
またささやき声がした。
「いい子だ、静かにしろ。 ここまでは追ってこないと思うが、おまえが鳴けば、敵を呼び寄せてしまうからね」
馬の鼻息と、蹄が土間を掻く音が聞こえた。 まるで騎手に返事をしているようだった。
ほどなく外で別の馬の蹄鉄音が響き、次いで、ぎょっとするほど近くで男の呼び声がした。
「どっちへ行ったかわかるか?」
小屋の中は静まり返った。 隠れている人間だけでなく、馬までも意識して気配を消しているのが感じ取れた。
小屋の外では、少し遠いところにいるもう一人の声が叫び返した。
「いや、わからん。 街道へ戻ったんじゃないか? いつもの通り、国境を越えてカウニッツの方へ逃げ帰ったんだろう」
「いまいましい! あいつを捕らえれば百グルデン手に入るのに」
真っ暗な道具箱の中で、マリアンネは恐怖に震えて首を縮めた。
賞金付きだって? しかも百グルデン(≒千二百万円)! いったいどれほどの凶悪犯なのだ! そんな男と、同じ屋根の下にいるなんて……!
外の話し声は、徐々に遠ざかっていった。
「百グルデンだと? そんなにつり上がったか。 悪党ってわけじゃないのに」
「目の上のタンコブなんだよ、代官様にしてみれば。 緑の騎士のせいで、余計な税の取り立てができなくなったし、袖の下も減ったからな」
「どっちかというと、代官のほうが罪が重いんじゃないか?」
「止めとけ。 そんな言い方すると、後が怖いぞ。 逆らうのは損だ」
「長いものには巻かれろってか」
そこまでで、男達の声は聞こえなくなった。
ひとまず、マリアンネは胸を撫で下ろした。
同じ小屋に潜んでいる男は、どうやら有名な『緑の騎士』らしい。
それは、正体不明の追いはぎについた仇名だ。 目の部分だけ切り取った緑色の袋をすっぽり頭に被り、顔を隠しているところから、そう呼ばれていた。
緑の騎士は、いわゆる義賊だ。 金持ちや権力者から奪い、貧民たちに分け与える。 常に単独行動で、仲間はいないようだった。
窪地に埋もれた炭焼き小屋は、追っ手の目に入らなかったらしい。 用心してしばらくじっとしていた人馬は、やがてホッとした様子で動き始めた。
「いいか、ここに繋ぐからな。 水はもう飲んだし、ゆっくり休んで足を休めろ。
確かあの箱に布が入っていたはずだ。 汗を拭いてやるから、少し待て」
拍車をつけていないらしい密やかな足音が、マリアンネの隠れている道具箱へ、わずかな月の光を頼りに近付いてきた。
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