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表紙

緑の騎士 -115-
 昼下がりになって、小規模な騎士の一団がマルトリッツ城の正門に近付いてきた。 先頭の一人は、槍の柄に白い布をなびかせていた。
 彼らが落とし格子の前まで来たところで、門番が停止を命じ、見張りが奥へ知らせに走った。


 白旗を掲げてやってきたのは、ディルクの予想通り、リーツ城の補佐役ワルデマル・オトマイアーだった。 彼は用心のため、いちおう鎧を着ていたが、兜はかぶらず、白髪まじりのダークブラウンの髪を東風になびかせていた。
 城の中には、オトマイアーと直属の部下一人だけが入るのを許された。 二人は城の前で剣を渡した後、二階の大広間に入った。
 エドムントは、立って彼らを迎えた。 その横に、どっしりした絹のドレスをまとった奥方が並んでいるのを見て、オトマイアーは一瞬足を止め、わずかに目を細めた。
 マリアンネを元気付けるように振り返ってから、エドムントは威厳を持って口を切った。
「あれだけの少人数で訪れたということは、平和の使者と思ってまちがいないのだろうな?」
「はい、閣下」
 正式なお辞儀を済ませた後、オトマイアーは感情を表さない声で伝えた。
「わが殿ヤーコブ・フォン・アスペルマイヤー様は、昨夜自室で亡くなられました」
「ほう、それは急なことだな」
 エドムントの驚いた芝居はうまくなかった。
「剣で首を切られたようです。 明らかに暗殺で」
「で、下手人は?」
「わかりません」
 歯噛みするような低い声が返ってきた。
「ともかく、ヤーコブ様がいなくては、軍を動かせませんし」
「それに、もう戦う理由も消え失せたからな」
 余裕の表情で、エドムントはマリアンネの方にうなずいてみせた。
「ヤーコブ殿の妹は、こうして元気に生きている」


 オトマイアーは、しばらく反応しなかった。
 自分に据えられた彼の凍った目を見て、マリアンネは悟った。 この男も、自分を焼き殺そうとした一味だ。 死んでいなかったのが、衝撃なのだ。
 マリアンネも彼を見つめたままでいた。 二人の視線が、空中で火花を散らした。
 先に目を逸らしたのは、オトマイアーのほうだった。
「はい。 戦いの理由はなくなりました」
 それから息を吸い込み、続きに移った。
「ヤーコブ様が呼んだ援軍は、早馬を出して既に断わりました」
「そうか、ではさっそく、和議の話し合いにかかろう」
 エドムントが長いテーブルの上座につき、横にベックマン守備隊長と重臣たちが席を取った。 オトマイアーと部下は、下座に坐り心地悪そうに腰を降ろした。


 マリアンネは、侍女のイーナと共に広間を下がり、アガーテが寝ついている一階の部屋へ向かった。 マリアンネが姿を消した夜に倒れて以来、アガーテは枕から頭が上げられないほど弱っているということだった。










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