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まだヤーコブの死は表沙汰になっていない。 すでに朝の七時ごろだから、小姓か側近が部屋に行き、死体を発見しているだろう。 その後、部下たちがどういう反応を見せるか。
「ヤーコブは、君の死を口実に戦いを仕掛けてきた。 だから君はその口実を無くすため、あくまでもマリア姫として、いったん城へ戻る必要がある」
「ええ、そうね」
マリアンネは覚悟を決めていた。 途中で思わぬ邪魔が入ったが、あくまでも最初の計画を貫くことが、未来につながるただ一つの道だった。
そして、その計画がうまくいくかどうかは、エドムントの決意と、遥か離れた地にいる教皇の胸三寸にかかっていた。
楽しい食事が終わると、二人は無口になって身支度をした。 ディルクはワインの残りを鞍袋に入れ、マリアンネはだぶついたマントを身にまとった。
森は危ないが、兵士がいつ現れるかわからない街道はもっと危険だ。 二人は一頭の馬を引き、黙々と下草を分けて歩いた。
用心は役に立った。 半時間ほど歩いたとき、男たちのぼそぼそした話し声が近付いてきて、二人は足を止めた。
馬と共に茂みの陰に隠れて間もなく、四人の兵士が少し離れた斜面を降りてきた。 ちぐはぐな鎧をつけているところを見ると、臨時雇いの傭兵らしかった。
「あのドケチ野郎、十二ペーニヒの日当を十に減らしやがったぜ」
「負け戦だからな。 金を払ってくれただけ儲けもんだ。 俺は居酒屋で賭けをして、三グルデン勝ったから懐は温かいぞ」
「よし、おごれ」
「その前に、この間の借りを返せよ。 二グロッシェンと八ペーニヒ」
「細かい数字までよく覚えてやがるな。 次の町で勝ち運がついてたら、利子をつけて返してやるさ」
四人の姿が木々の向こうに消えるまで待って、二人はそっと立ち上がった。
額に皺を寄せて、ディルクは呟いた。
「リーツ城では、傭兵をすぐお払い箱にしたらしいな。 おそらく参謀役のオトマイアーがやったんだろう。 彼は冷静で、仕事が早い。 午前中にも休戦を申し出てくるかもしれない」
「ますます城へ急がなきゃならないのね」
マリアンネの顔が陰った。
「戻ったら、しばらくはあなたの傍に行けない。 辛いわ」
「きっとすべてがうまくいく。 そう信じよう」
「ええ」
囁きながら、マリアンネの手がディルクの首に回り、激しく引き寄せた。 二人は口を熱く重ねたまま、茂みの奥に崩おれた。
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