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表紙

緑の騎士 -112-
 ディルクが門を叩くと、顔見知りの門番がすぐ開けてくれた。
「これはデーデブリュック様、お久しぶりで」
「もう半年になるかな、フーゴー。 元気そうで何よりだ。 もう子供は生まれたかい?」
 鉄色の髪をした大男のフーゴーは、驚き、嬉しそうに目を細めた。
「はい、男の子でヤンと名付けました。 最初は小さくて、生き延びるか気を揉んだんですが、今じゃ犬ころみたいに元気に育ちまして」
 それから、声を潜めるようにして付け加えた。
「かみさんのことまで覚えて下さってたんですね。 そんな騎士の方は、他にはいません」
 ディルクは祝いとして銀貨をフーゴーに握らせてから、改めて尋ねた。
「俺の友人が来たと思うが」
「はい」
 フーゴーはすぐに答えた。
「でも、何時間かいらしただけで、出発されました」
 そして、懐からハンカチで包んだ物を出し、ディルクに手渡した。
「これを、あなた様だけに渡すようにと」


 使いの礼としてディルクが改めて与えようとした金を、フーゴーは断わった。
「いえ、さっきの祝いと、覚えていてくださったことで充分です」
「そうか。 でも、出した金を引っ込めるのは面倒だ。 これからすぐ行かなけければならない所があるので、レーギン殿にはご挨拶しないで去ろう。 ディルク・デーデブリュックが心より感謝していた、また日を改めてご挨拶に伺う、とレーギン殿に伝えておいてくれ」
「はい、確かに」
 今度は出された金を受け取って、フーゴーは笑顔を浮かべた。




 急いで馬に向かいながら、ディルクはハンカチ包みを解いて、中を見た。
 それは、マリアが書いたらしい綺麗な筆跡の手紙だった。


『大切な友、ディルクへ
 不意にあなた方の計画に割り込んだ形になって、ご迷惑をかけました。
 その上に、同志を一人さらっていく形になり、申し訳ないと思っています。
 兄ヤーコブに捕まりかけたとき、私は森の中に宝石を隠しました。 幸い、無事に見つかったので、ヨアヒムと別の土地へ行くことにしました。
 わかってください、ディルク。 私達は十年以上前から密かに愛し合っていました。 六年前、生木を裂かれるように私は嫁がされ、ヨアヒムは荒れた生活を送るようになりました。 それがやっと、二人で出直す日が来たのです。 邪魔が入らないうちに、出ていかないわけにはいかないのです』
 その文面の後に、汚い字が数行並んでいた。 書くのが苦手なヨアヒムが、苦労してペンをなめる姿が目に浮かんだ。
『許せ。 おまえとロタールはわかってくれると信じる。 特におまえは、ヴィーナスの呪いをよく知っているからな。
 できたら、おまえもマリアンネを連れて逃げろ。 彼女に、意地悪言って悪かったと謝っておいてくれ。 あれは、わざとだ。 見かねておまえが庇えば、仲直りさせられると思ったんだ。
 俺たちの幸運を祈ってくれ。 おまえたちの幸せを、心から願う。


永遠に忠実なる友、マリアとヨアヒムより』



 ディルクは、苦笑して手紙を畳み、懐に入れた。
 城の裏庭で、わざとマリアンネを挑発し、桶の水をこぼしたヨアヒム。 荒っぽい仕草の中に、そんな思いやりが隠されていたと知って、微笑していたつもりなのに、目頭が熱くなってきた。










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