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表紙

緑の騎士 -111-
 ディルクはひどく疲れていたし、眠かった。 しかし、心にかかる二つの心配を片づけないと、横になるわけにはいかなかった。
 一つは、愛しい人をもっとましな場所に移すこと。 そしてもう一つは、ヤーコブの部下がつきとめたかもしれない『レーギンの家』に行き、マリア姫とヨアヒムを連れ出すことだった。
 前庭から塔の外回廊の下を抜けて中庭に入り、ディルクはロタールを探した。
 彼はすぐには見つからなかったが、部下の護衛兵たちが鍛冶屋の作業場近くにたむろしていた。 ディルクは、さりげない顔で近付いていった。
 彼を認めると、古参兵のマックスがすぐ、不安そうな顔で寄ってきた。
「参りましたな。 ヤーコブ様が攻撃してくるなんで全然知らされてなかったんで、俺たち板挟みで、ここでずっと小さくなっていたんですよ」
「ロタールは何と言っていた?」
「我々はマリア様を護るのが任務だから、招集をかけられていないのに戦う必要はないと」
 そう答えながら、マックスはごしごしと顎をさすった。
「でも、そのマリア様がお棺に入っていたとなると、俺たちの仕事はいったい……」
「あの方は生きている」
 ディルクはきっぱりと言った。
「棺で見せられたのは替え玉だ」
「そうなんですかねえ。 人垣の間から覗いてみましたが、そっくりでしたよ」
「目を閉じている顔は、みんな似たようなものだ」
 適当にごまかして、ディルクは当りを見渡した。
「ところで、ロタールは?」
「俺たちに武器を返してもらえるよう、談判に行かれました。 丸腰じゃ心細いですから」
「そうだな」
 おそらくロタールは、エドムント達と秘密会議を開いているのだろう。 ディルクは、ロタールの従僕アロイスの姿を探したが、彼もどこかへ消えていた。
 やむを得ない。 もう少し一人で頑張るしかないようだ。 ディルクは護衛兵の中に入って、温めたエールを一杯分けてもらい、ソーセージを二本テーブルからすくい取って懐に入れると、元気な馬を借りて、再び西門から出た。


 空はどんどん明るさを増し、うっそうとした森を突っ切っていくときも、迷わないですんだ。
 レーギンの家は、アイゼンタッセ街道を北東に下ったところにあり、十三世紀に作られた要塞を修復した頑丈な建物だった。
 今は、ラインハルト・レーギンという農場主が住んでいる。 レーギンは、昔高名な吟遊詩人だった男で、今は大麦の収量を上げるための品種改良に熱中していた。










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