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表紙

緑の騎士 -105-
 必死に体勢を立て直そうとする騎士たちに、城壁の矢狭間〔やはざま〕から大弓の矢が降りそそいだ。 正門の脇に隠れていた先行隊には、石や熱湯が浴びせられた。


 二時間ほどで、第一陣攻撃の決着はついた。 敵は、逃げまどう馬を集めて軍を引いていき、ひとまず丘の向こうに身を潜めた。
 城の中には一人の敵兵も侵入できなかった。 ほっとしたエドムントは、夜風に冷えた体をマントでしっかりくるみ、指示を下していた塔からゆっくり降りてきた。
 三人の部下と共に中央閣のバルコニーに出て、敵の退却を告げると、持ち場についていた兵士たちから一斉に歓声が上がった。
「みんな、よく戦った! だが、まだ油断はするな!」
 騒音の中で、エドムントは声を張り上げた。
「敵の軍資金は豊富だし、この城をひどく欲しがっている。 策略家でもある。
 弓の射手と城壁の守護をした者たちは、ご苦労だった。 暖かい食事を取り、ゆっくり休んでくれ。 ただし、まだ敵が戻ってこないとも限らない。 腹が裂けるほど飲みすぎるなよ」
 どっと笑いが広がった。 エドムントも微笑した。
 部屋に戻る前に、エドムントはベックマンに命じるのを忘れなかった。
「今夜は、中の護りを固くするように。 すべての外門に十人ずつ見張りをつけ、四人一組で城壁を巡回させろ。 壁を乗り越えて侵入しようとするかもしれないから、上にも注意させてくれ」
「仰せのとおりに」
 ベックマンは一礼して、素早く階段を駆け下りていった。




 戦いが終わる一時間ほど前、ヨアヒムとディルクは密かにブライデンバッハに戻った。 そして、マリアンネから教わった地下道を通って、アスペルマイヤー家の納骨堂に、そっと姿を現した。
 偽の棺の蓋を押し開けて、ディルクがまず頭を出し、後にヨアヒムが続いた。
 小さな窓しかない納骨室は、ほぼ暗闇だった。 だが、礼拝室に続く扉の下から、明かりの筋が洩れ出ている。 すぐに見つけたディルクは、警戒して足音を忍ばせた。
「棺の蓋を閉じる時、音をさせるなよ」
「わかった。 礼拝室に人がいるのか?」
「かもしれん。 マリア姫を安置しているのかも」
 それを聞いて、ヨアヒムの端正な顔に、複雑な影が走った。






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