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普段なら人々が寝静まる夜半過ぎ、城の西側に流れる川をそっと下ってくる平底船の集団があった。
船の群れは、城から見下ろせない森の出口に留まり、一艘の小舟だけが壁に沿って城門まで漕ぎ寄せた。 乗り手の一人が岸に降りて、草むらから僅かに覗いた導火線に、火打石で点火した。
男は急いで小舟に引き返すと、仲間と二人で懸命に漕いで上流に戻った。
シューシューと小蛇のような音を立てて、導火線は燃えていった。
だが、続いて起こるはずの爆発音は、いくら待っても聞こえてこなかった。 少し待っていた小舟は、やがて向きを変えて帰ってくるなり、岸に乗員が飛び乗って火薬樽を探し始めた。
それが合図だったように、突如周囲の様子が変わった。
まず西門の片側が開き、二人の男をいきなり城の中に引っ張り込んで、また閉じた。
同時に、森の出口で真っ赤な炎が上がった。 木々の間に配置されていた手勢が、敵の船団めがけて一斉に火矢を放ったのだ。
火の攻撃に追われて、船は我先に下流へ向かった。 だが、そこに待っていたのは、川底に沈めた丸太の罠だった。 鋭く尖らせて鉄の爪で覆った木材の先が、不気味な音を立てて次々と船底を切り裂いていった。
時を同じくして、黒っぽい装束を着た兵士たちが、身を低くして丘を這い降り、表門に近付いてきた。
彼らが城壁の前に張り付いても、エドムントは攻撃命令を下さなかった。 鎧の上に紋章付きのサーコート(=外衣)をまとい、剣の束に手を置いたエドムントは、常になく決然として見えた。
城主と並んで最も高い塔の上に立ったベックマンは、鋭い眼差しで正門前の広場を見渡しながら、低い声で言った。
「奴らは西門を壊して侵入し、混乱に乗じて中から正門を開く予定です。 その後は、あの先行した兵士たちが正門を固め、騎馬隊が突入する手筈でしょう。
どうなさいます? 門を少し中から動かしてみますか?」
エドモントは頷いた。
「やってみろ。 うまく引っかかるといいな」
嬉しそうに、ベックマンが塔の窓からハンカチを落とした。 布が宙に舞うのを見て、門番が大門をガタガタと揺らした。
そのとたん、蹄の音が地響きとなって伝わってきた。 丘の外れから二手に分かれて、騎士たちが奔流のように流れ下りてきたのだ。
同時に、信じられないことが起こった。 広場のあちこちで、いきなり地面が盛り上がるやいなや、人の背丈ほどの柵が出現した。 駆け下りてきた馬たちは急に止まれず、不意に前を遮る柵にぶつかって、恐怖にいななきながら乗り手を振り落とした。
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